恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
幸子は、ぎゅっと手を握った。
胸の奥で、何かが揺れる。

「さっちゃん。……あなたは、あなたの人生を生きなさい」

やわらかな言葉だった。
押しつけるような強さはない。
それでも、確かに背中を支える重みがあった。

「もしね、あなたがこの家を出ることになっても、ご近所さんもいるし、私は大丈夫よ」

あっさりとした言い方だった。
けれど、その奥にある優しさは隠しきれていない。

「だから、怖がって、幸せを手放すのは……もったいないわよ」

その言葉が、静かに胸に響く。
すぐには答えは出ない。

けれど、さっきまでとは、少し違っていた。
怖さのその向こう側を考えられるようになっている。

子猫が、祖母の手の中で小さく鳴いた。
幸子はその背中をそっと撫でる。

あたたかい。
ここにあるもの。
守りたいもの。
そして、これから手に入るかもしれないもの。
それらを全部、抱えたままでもいいのだと、初めて思えた。

「……うん」

小さく、頷く。
それはまだ答えではない。
けれど、逃げないという意思だけは、確かにそこにあった。
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