捨てたものに用なんかないでしょう?

36  どうかなさいましたか?

「私はあなた方に捨てられたなどと、これっぽっちも思っていません。絶縁状はあなたたちを捨てるために作ったのです。この意味は理解していただけますわね?」

 リミアリアは微笑みながら小首を傾げた。

「どういうことだ? 絶縁状を作ったのは、私たちへの当てつけじゃなかったのか?」

 テイランは引きつり笑いを浮かべて、リミアリアに聞き返した。

「違います。あなた方の罪が暴かれた時、巻き込まれないようにするためです」
「罪だと? リミアリア、いい加減にしろ! フラワは私とホリーがお前の母を殺したと言ったかもしれないが、私たちは関与していない!」
「そうよ! あの子がでたらめを言っただけ。信用しないでちょうだい!」
「でたらめかどうかは、騎士隊が調べてくれると思います。あなた方が母の死に無関係だと言うのなら、慌てる必要もありませんわね? それなのにどうして、動揺しておられるのでしょうか」

 リミアリアが首を傾けると、テイランとホリーは顔を見合わせて黙り込んだ。
 何年も前の出来事のため、証拠など見つかるわけがない。テイランたちはそう考えていたが、彼らはフラワがやったことを知らなかった。
 そのことに気がついたリミアリアは、彼らに教えてやることにした。

「先日、シウナ子爵はフラワ様に私宛の菓子を持参させましたわよね?」
「……マドレーヌのことか?」
「そうです。実はあのマドレーヌ、フラワ様が毒入りと普通のものを入れ替えていたのです」
「なんだって!?」

 テイランは目を見開いて聞き返した。

「誰も口にしていませんので、ご心配なく。ただ、フラワ様が馬鹿なことを考えたおかげで、毒の入手ルートをつかむことができました」

 リミアリアはホリーを見つめ、意味ありげな笑みを浮かべた。すると、ホリーの身体が震え始めた。そんなホリーにリミアリアは笑みを消して尋ねる。

「あら、どうかなさいましたか?」
「な、な、なな、何でもないわ」

 ホリーは以前、フラワに毒の入手ルートを教えたことがあった。フラワに毒を売った相手は、リミアリアの母を毒殺した時に使った業者と同じだったため、自分にも捜査の手が及ぶのではないかと恐れたのだ。

「違法で毒を販売していたという理由で、業者は騎士の取り調べを受けているところだ。どんな話をしてくれるか楽しみだな」

 黙って話を聞いていたアドルファスが話を補足すると、テイランたちの顔色はみるみるうちに青ざめていったのだった。

******

 アドルファスの話を聞いたテイランは冷や汗が止まらなかった。

(私が買った菓子を毒入りと入れ替えただと? あの馬鹿娘はなんてことをしようとしたんだ! 何かあれば、私が疑われるところだった!)

 どうして、自分のことしか考えない娘に育ってしまったのか。
 テイランは自分のことを棚に上げてそう考え、隣に座るホリーを見つめた。
 ホリーは真っ青な顔をして、床の赤いカーペットを凝視しているだけで、テイランに見られていることに気づく気配はない。

(昔は美しかったが、年を取るとそうでもないな。この女のために、危ない橋を渡るんじゃなかった)

 テイランはホリーを見つめながら昔のことを思い返す。
 あの時は、両親に反対されていたこともあり、ホリーとの仲が余計に燃え上がってしまっていた。その熱が続いていた頃に、テイランの両親が亡くなり、ホリーから当時の妻を毒殺しようという話が持ち上がったのだ。

(私は最初は反対したんだ。だが、ホリーが薬師つながりで毒薬を入手し、私の所へ持ってきたんだ。そうだ。毒薬を仕入れた業者は私が関与していることは知らないはずだ)

 リミアリアの母の食事に毒を入れたのはテイランだ。だが、それを知っているのは、ホリーしかいない。
 テイランは深呼吸すると、リミアリアに頭を下げた。

「毒を入手して、お前の母を殺したのはホリーだ。止めることができず、本当に申し訳ない」
「あなた! 何を言っているのよ!」

 リミアリアが反応する前に、ホリーが素早く顔を上げて反論した。

「元妻の食事に毒を入れたのはあなたでしょう! 私のせいにしないでちょうだい!」
「私は何も知らなかった。お前に頼まれて、当時の妻の料理に液体を入れただけだ。毒だなんて知らなかった」
「あなた! 裏切るつもりなの!?」

(うるさい女だ)

 泣き叫びながら、自分に掴みかかってきたホリーから逃れることはせず、無抵抗のまま、頬や体を殴られていると、リミアリアがふたりに話しかけた。

「話を整理したいと思いますので、一度、落ち着いていただけますでしょうか」
「……っ」

 リミアリアの冷たい眼差しに怯んだホリーは、大人しくソファに座って前を向いた。テイランが乱れた衣服を直し、居ずまいを正すと、リミアリアはテイランに尋ねた。

「シウナ子爵は私の母の毒殺の件に、一切関与していないとおっしゃりたいのですよね?」
「そうだ。悪いのはこの女だ」

 テイランはホリーを指差して断言した。
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