君が好きだというならば~episode1~

駆れてしまう衝動


―――

――――……


「ハア…ハア……っ…」



『やめろ』



『やめてくれッ!』




『俺からあの子を奪わないで…』



『…か…な……かなッ!』




「ぉい、しっかりせい。」



「わ、かなっ」




今の季節は冬。

まして、夜となれば格段に温度は下がる。



にもかかわらず、彼の身体中からは汗が次々と流れている。


先ほどからはもう何回繰り返したか分からない名前。




悪夢にうなされているであろう彼に心配の色を見せる老人。


この子は一体…どれほどのものを抱えておるのか。



こんな事が起こったのは一度や二度じゃない。


彼が老人の元で暮らすようになった二週間ほど前から、毎日のように続いていることだった。





この子が人間じゃないのは雰囲気で分かるのじゃが……




老人は未だに彼がどういった存在なのか掴めずにいた。




それは老人にとって驚くべきことでもあり、どこか懐かしさを感じるものでもあった。





はっ

として彼が目を開いた。



すぐにはここがどこだか把握できないようで



ぼんやりとした眼差しを辺りにさまよわせる。




「あなたは……」



掠れた声で老人に声をかけるカイ。



「目を覚ましたか。

わしじゃ、シュントクじゃ」




既に名前は伝えていたが、思い出せないのだろうか…

まだどこかぼんやりしているカイ。



「シュ…ントク…さ……ん?」

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