辞めたい聖女は王子に嫌われることにした

第11話 聖女引退

 今日で、聖女を引退?

 レオルド王子の指示だと言うけれど、急過ぎはしないだろうか。

「それは、私が今回の件でご迷惑をかけたからでしょうか」
「違いますよ。レオルド王子は前々からシエル様の意向に添えるよう尽力してまいりました。その結果、ということです」

 そんなのおかしい。
 だって、まだ聖女でいてとあんなに言っていたのに。
 なんだか腑に落ちない。
 
 私だってあんなことがなければ両手を上げて喜んでいたかもしれない。
 だけど、迷惑をかけたまま引退だなんて後味が悪いにもほどがある。
 もっと清々しい気持ちで辞めたかったのに。

 でも、決まったことなら仕方ないのか。
 ここでどうこう言っても変えられるものではない。

 今まで散々辞めたいと言ってきたのは私なのだから。

「では、私は明日からここで治癒師として働くということですね」
「いえ。シエル様はしばらく医療所でも働かなくて良いとレオルド王子から言付かっております」
「待ってください。それはどういうことですか? 私は聖女引退ではなく、解雇されるということですか?!」
「私の口からは何も申し上げることはできません」

 なにそれどういうこと?!
 聖女を引退したら治癒師として働くんじゃないの?
 私はこの国で治癒魔法を使えるたった四人のうちの一人だ。
 それを、働かななくていいって……。

 ヴァイザー様はレオルド王子が決めたことだからと何も教えてくれない。

「シエルさん……どうして」

 イーディアも心配そうに私を見る。
 聖女を引継ぐことは納得しているようだけれど、私のことは彼女も疑問に思っているようだ。

「レオルド王子と話をさせてください」
「王子は今隣国との会談に向かっていてここにはいません」
「いつ、戻って来られるのですか?」
「わかりません。会談次第です」

 レオルド王子が何を考えているのかわからない。
 黙ってしばらく留守にすることも今までなかったのに。

「私は、いらないということですね……」
「シエル様、そういうことではありません。とにかく、今はご実家に戻ってゆっくり休んで欲しいとのことです」

 暇を出されたってことね。
 
「わかりました。すぐに部屋の荷物を纏めます」

 レオルド王子はいないし、ヴァイザー様に訴えたところで彼を困らせるだけだ。
 私は指示に従うしかない。

 その後、医療所の片付けの続きを終え、部屋に戻り荷造りをした。
 もともと物をたくさん持ってきていたわけではないのですぐに準備を終え、王宮を出る。

 すると門のところにはイーディアが待っていた。

「シエルさん、すぐに戻ってきますよね?」
「わからないわ。私が決めることではないから……」
「きっと、レオルド王子もシエルさんの身体のことを思って今は休むように言っているだけだと思います」
「そうかもしれないけど、私は大丈夫なのに勝手に決めるなんておかしい……」

 いけない。思わず不満が漏れてしまった。

「私、立派な聖女になってシエルさんのこと待ってますから。また一緒に働きましょう」
「ありがとうイーディア。でも無理はしないでね。嫌なこととかできないことはちゃんと言うのよ」
「はい。頑張ります」
「あとの二人にもよろしくね。迷惑をかけてごめんなさいと伝えておいて」

 迷惑なんてことはないと首を振るイーディアだけれど、ただでさえ少ない治癒師なのに家庭のある二人に負担をかけてしまう。

 それもこれも王子が勝手に決めたから。
 なんか、腹立ってきた。
 さんざん振り回しておいてこれだなんて。
 やっぱり私のことなんて何も考えてない。

 私は心配そうにするイーディアをぎゅっと抱きしめた。

「こんなことになってごめんね。イーディアのこと、応援してるから」

 それだけ言うと、私は実家のある街へと歩き出した。
 
 貧乏男爵家の私の家は一応爵位はあるものの、貴族の住宅街ではなく、街の中に家がある。
 王宮から遠くはないけれど、一般市民とさほど変わらない暮らしをしていた。
 
 私が聖女として働きはじめてからは両親もお金に困ることはないらしいけれど、これまでの生活が板に染みついているようで散財などはしていないようだ。
 堅実な両親で良かった。

 街の大通りを抜け、噴水のある広場を抜けたところで家が見えてきた。
 帰ろうと思えばいつでも帰れる距離だけれど、この七年間、年に一、二回帰るくらいだった。
 それにいつ呼び出されるかわからないから、長居もできなかった。

 いきなり解雇になったって帰ってきたら父も母もびっくりするだろうな。
 いや、しばらくお休みというだけでまだ解雇と決まったわけではない。

 一年振りの我が家に少し緊張しながら、玄関のドアを開けた。
 
「ただいま……」
「シエルお帰りー」
「よく帰ってきたな!」

 笑顔で迎えてくれた両親はいきなり帰ってきたというのに、驚く様子もない。
 それに、なんだかいい匂いもする。

「この匂いはなに?」
「今日はちょっといいお肉を買ってステーキを焼いたの。シエルが帰ってくるのを待ってたのよ」
「え? どうして?」
「今朝王宮から使いの人が来て、シエルが最近働き過ぎだからお休みをと取って帰ってくるって。それで手当てがどうとか~ってお給金をたくさんくれたのよ」

 なにそれ……退職金みたいじゃない。
 レオルド王子、そんなことまで手を回していたんだ。
 私には何も言わずに。

「そうなんだ。美味しそうだね……」

 部屋に入り、テーブルに並べられた料理を見て、両親が一生懸命用意してくれたことがわかる。
 でも、素直に喜べない私は親不孝ものだ。

「ほら、荷物をおいて食べよう」
「しばらく家にいるんでしょう? ゆっくりしていきなさいね」

 ゆっくり過ごすことは私がずっと願っていたことなのに、どうしてか嬉しくない。
 明日からなにをして過ごせばいいのかわからない。

 そんなことを思いながら、まるでパーティーのような夕食を食べた。
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