辞めたい聖女は王子に嫌われることにした

第4話 休息日

 朝、日が登りきる前に起きて聖服に着替える。
 そして礼拝堂へと向かっていると、途中で侍女に呼び止められた。

「シエル様、今日はお祈りが終わったあとはお部屋でいるようにとレオルド王子から言付かっております」
「部屋で? あとで呼び出しがあるとかですか?」
「それはわかりませんが……」

 部屋でいろだなんて初めてだな。
 何か面倒な予感がするけれど、わからないから従うしかない。

「わかりました」

 侍女は私の返事を聞くと仕事に戻っていった。
 私もお祈りを済ませると部屋へと戻った。

 聖服のままベッドに倒れ込み、窓の外に視線を向ける。
 戻ったはいいものの、することがない。
 現場同行とか大きな仕事があるときは事前に知らされるし、呼び出されるにしても大したことはないよね。
 起きてお祈りに行っただけなのにベッドに沈んでいると眠気がくる。
 ちょっとくらい寝ていてもいいかな。いいよね……。

 ◇ ◇ ◇

 目を開けた時には西日が差し込んでいた。

「もう夕方?」

 ちょっとのつもりがだいぶ寝てしまっていた。
 でも思いっ切り寝たからか、随分と身体がすっきりしている。
 結局呼び出されなかったな。
 ノックの音には敏感になっているから、誰か呼びにきたら気付くはず。
 さすがにこの時間からどこかに連れていかれることもないだろう。
 王子が個人的に呼び出すなら夜だ。

 一日を寝て過ごすなんて聖女になって初めてだった。
 ダラダラ過ごすのは好きだけど、少し罪悪感が湧くのは聖女という立場が染みついているからだろうか。

「医療所の手伝いでも行こうかな」

 この時間はイーディアが一人で掃除をしているはず。
 私は部屋を出て医療所へ向かうことにした。
 宿舎棟を出て中庭を歩いていると、訓練後の騎士たちも歩いていた。
 みんな逞しい身体つきをしていて、常日頃からしっかりと鍛えていることがよくわかる。
 すると騎士の一人が右腕を押さえながら歩いていることに気づいた。
 怪我をしているのだろうか。

 私は騎士に駆け寄った。

「あの、腕を怪我されているのですか?」
「シエル様、お疲れ様です。訓練中に木刀を腕で受けてしまって」

 押さえていた手を離すと、上腕全体が赤く腫れあがっていた。

「痛そうですね。私が治します」
「いえ、折れてはないので大丈夫ですよ。この程度でシエル様の手を煩わすわけにはいきません」

 謙虚だな。どこぞの王子とは大違い。

 たしかに彼らの治療をするときは現場同行をしたときなどで、動けなくなってテントに運ばれてくるような怪我の時ばかりだ。
 でもこの腫れだと数日は支障がでるだろうし、無理をすると悪化する。

「煩うほどのことではないので大丈夫です。腕、触りますね」

 そっと腕をとり、手のひらを当てる。
 魔力を流し込むと、腫れはスッと引いていった。

「さすがシエル様です。痛みの残余もまったくありません」
「それは良かったです」

 治った騎士は嬉しそうに腕を振り上げ、そして手を差し出してきた。
 握手? お礼の握手ってこと? 面白いな。
 私は彼の手を握った。

「何をしているの?」

 後ろから声がして振り返ると、そこにはレオルド王子がいた。
 いつもの貼り付けたような笑顔だけれど、なんだかいつもより目が笑っていない気がする。

「えっと……彼が怪我をしていたので治しました」
「シエル、今日は部屋でいるようにと言っていたよね?」
「はい。どれだけ待機していても呼ばれないので、医療所の手伝いに行こうかと思っていたら怪我人を見つけたので」

 待機なんていいように言って、ただ寝ていただけなんだけど。

「待機? そういうつもりで言ったんじゃないんだど。そんなことよりいつまで手を握ってるの」
「ああ……」

 指摘されて握手していたままだと気付いた。
 騎士はもう一度ギュッと握るとありがとうございました、と言って離す。
 するとレオルド王子は騎士の腕に視線を向ける。

「医務室には行かなかったの?」

 医務室は騎士が怪我をしたときに簡単な手当てをするところだ。

「今から行こうと思っていたのですが、ここでシエル様に会って治していただきました」
「そう簡単に聖女に頼るものではないよ」
「はっ、申し訳ありませんでした」

 私が勝手にしたことなんだから謝罪する必要なんてないのに。
 こっちが申し訳なくなる。
 それに自分はいつも擦り傷程度で呼び出すのに何を言っているんだ。
 私だってひどい怪我を治す方がやりがいを感じられるし。

「治療することが私の仕事ですのでいつでもおっしゃってくださいね」
「シエル様……ありがとうございます!」

 元気の良い人だな。
 また騎士さんが責められるといけないので牽制するようにレオルド王子を睨むように見ると、少し呆れたように息を吐いた。

「いいけど、あまり聖女に馴れ馴れしくするものじゃないよ」
「承知いたしました!」

 嬉しそうに去っていく背中を見送り、私も医療所へ向かおうとするとレオルド王子に腕を掴まれた。
 そして医療所とは反対の方へと引っ張っていく。

「ちょっと、どこに行くんですか」
「帰るよ」
「私、医療所の手伝いに行くって言いましたよね」
「イーディアならもう帰ってるよ」

 なんで知っているんだろう。医療所に行っていたのかな。
 でもだからって引っ張っていかなくてもいいでしょう。

「でしたら一人で帰りますので離してください」
「いやだ」

 いやだあ?!
 子どもですか。
 結局そのまま腕を引かれ連れていかれたのは、レオルド王子の部屋だった。
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