推しの妻になりました〜アイドルと契約結婚〜

第35話 Noodle



 得体のしれない空気が二人を包む。
 それを切り裂いたのはTOMAだった。

「先に向こう行ってる……さっさと着替えてこいよ」
「あ、はい!」

 二十分後、着替えを終えた苺依はリビングに向かう。
 また首筋が熱い……。
 緊張したままリビングに入ると、ソファでスマホをいじるTOMAがいた。

「おっせぇよ、いちご。なぁ、腹減った」
「なにか作りましょうか」
「カップラーメン」
「え?」
「ラーメン」
「食べたいんですか?」

 アイドルでもカップラーメン食べるんだ、とか思っちゃった。
 そりゃ食べるか。
 そういえば、あの会場で食べる予定だったからお腹空いてきた。

「これ、作れ」

 TOMAが袋麵を二つ苺依に渡した。

「わかりました。すぐに作りますね」

 とは言ってもお湯を沸かすだけなのだが。
 でも、その間TOMAがずっとキッチンにいた。

「…………」
「…………」

 何も言わずにただ立っているTOMAの気配を背後に感じる。
 TOMAが少し動くとビクリと反応する苺依。

「なんだよ」
「いえ……なにも」

 今度はTOMAがゆっくりと近づいてきた。

「……あ、の……」

 TOMAの意図がわからず苺依は身構えた。
 至近距離でゆっくりと近づいてくるTOMAの顔。
 後ろは引き出しにぶつかっって逃げ道はない。

「TOMA、さん……ちょ、あの……」

 TOMAの腕が苺依を通り越してキッチン台に置かれる。
 そしてもう片方の腕が伸びてきて……。

「え……え、ちょ、TOMAさん……」
「…………」

 もうこのままでは……!
 触れそうになる唇を前に、苺依はぎゅっと目をつぶった。
 しかし、待てど暮らせどその時は来ず。
 変わりにTOMAの声が落ちてきた。
 
「おい、いちご……邪魔」
「え?」

 バッと目を開けると、TOMAの手は引き出しの取っ手に。

「え……え?」
「だから邪魔だって。箸、取れねぇ」
「あ……ああ! お箸! すみません!」

 慌ててその場から離れる苺依。
 
(キ、キスされるかと思ったー!!!)

 恥ずかしすぎて穴があれば入りたい。

「もしかして……」
「へ?」
「なんか期待した、とか?」

 意地の悪い笑みを浮かべたTOMAが聞いてくる。
 そして反射的に……

「は、はあ!? なに言ってるんですか。そんなことあるわけないじゃないですか」
「へーえ? 自意識過剰なのかと思った」

 口角を上げたTOMAに苺依は顔を真っ赤にして突っかかった。

「自意識過剰!? ほんとあり得ません! なんとも! 思ってませんから!」
「はいはい。ほら、お湯沸いたぞ」
「私持っていくので、お箸持って向こうで待っててください」
「……わーったよ」

 苺依はカップラーメンにお湯を注いだ。
 結局、その後はいつも通りだった。
 部屋に入り、寝ようとするもなかなか落ち着かなくて眠れない苺依。

 同じ時刻、TOMAの部屋。

「………」

 さっきから、台本のセリフが一行も頭に入ってこない。

「……チッ……クソ……」

 TOMAは台本を放り投げベッドへと倒れ込んだ。
 この言葉に出来ない感情に、苛立ちだけが熱を持って膨らんでいった。
 
――To be continued
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