異世界に来て10年、伝えられないままの片想い
第21章 ちゃんと終わらせるつもりだった――返しに来たはずの指輪
数日後。
夕食亭の仕事が終わったあと、私はバルスの家の前に立っていた。
――もう、終わりにしないと……そう思っていた。
「こんな時間にどうした?」
「その、少し、話していいですか」
バルスは私の顔を少し見てから、深くため息をつく。
「少しだけなら」
そう言って家の中へと通してくれた。
明らかに迷惑そうな顔に、あぁ、やっぱりなと思う。
ジェイドさんの言葉に、どこかで期待していた気持ちが、静かにしぼんでいく。
でも、これでいい。
これで、ちゃんと区切りをつけられる。
私はポケットの中の指輪を、ぎゅっと握りしめた。
これを――ちゃんと返さないと。
「ごめんなさい、疲れてるよね。私、これを」
そう言って、ポケットから手を取り出す。
「あのね、これ……返しそびれていたから」
握りしめていた手を、少しだけ躊躇してから開く。
指輪を、バルスへと見せる。
バルスは驚いた表情を浮かべて、私と指輪を交互に見てから、
「それは、ミドリにあげたものだ。いらないなら捨てればいい」
と続けた。
捨てる?
……一瞬、意味が分からなかった。
その言葉が、思った以上に胸に刺さる。
確かに返されても困るかもしれない。
でも――私に、それを捨てられるわけがないのに。
「捨てるなんて……私……っ」
涙が次から次へとあふれてくる。
それでも泣き顔を見られたくなくて、手で顔を覆う。
「ご、ごめ……でも……もらえた時、嬉しくって」
「……好きなの」
「……大好きなの……」
――結局。
そのまま、しゃがみ込んで大泣きしてしまう。
私、何やってるんだろう。
……ほんとに。
バルスが何も言葉を発しないことが、私への返事だと思った。
しばらくして、ハンカチで涙をぬぐい、立ち上がる。
惨めで、恥ずかしくて、それでも。
「ごめんなさい。遅くに……おやすみなさい」
一気に言い切って、ドアへと手を伸ばす。
「……オレは……ミドリのそばには相応しくない……」
その言葉に、ドアノブにかけた手が止まる。
胸に、深く突き刺さる。
……また、振られた。
私が悪い。
振られているのに、好きだなんて。
これ以上惨めな自分を見せないように、深呼吸する。
「あの、もう大丈夫です。本当は分かっていたのに、ごめんなさい。困らせて。明日からはちゃんと、ただの友人に戻るから……今日のことは忘れ――」
そのとき。
気づいたときには、後ろから腕に囲われていた。
「……それでも、オレは――ミドリが欲しい」
「……え?」
頭が、ついていかない。
「オレは騎士だ……何かあれば……いつか、ミドリをまた悲しませるかもしれない」
囲っていた腕が、離れようとする。
私はとっさに、その腕を掴んだ。
「それでも、私は……傍にいて……たくさん抱きしめてほしいです」
言った瞬間、自分で自分にダメージを受ける。
抱きしめてほしいって――
ない。ないから。
「い、今のは……忘れ――」
言い終わる前に、身体が持ち上がった。
久しぶりに、バルスの腕の中に抱き上げられる。
そのままソファへと引き寄せられて、また腕の中に囲われる。
額と頬に、そっとキスが落ちた。
ドキドキしすぎて、頭の中が真っ白になる。
それでも――幸せだった。
「……すまない」
少しして、申し訳なさそうに視線を向けられる。
私は彼の胸に顔を埋めて、こぼれそうになる涙を堪える。
それでも顔を上げて、
「もう大丈夫だから……困らせてごめんなさい」
と、精一杯の笑みを浮かべる。
「違う、ミドリ。オレは……」
バルスはため息をついてから、
「オレが怖くはないのか?」
と、以前と同じ問いを口にする。
言いたいことは分かる。
でも、私の想いは揺らがない。
「私は……貴方が好きで、だから傍にいたいと思って。それじゃあ、だめですか?」
「オレは……またお前を手に入れれば、今度こそどんなに嫌がっても、もう二度と離せなくなる」
強く抱きしめられる。
私はその腕にしがみついた。
「じゃあ……傍にいてください。ずっと、ずっと……」
顔を見上げると、そのまま軽く唇が触れる。
彼は小さく苦笑して、
「もう、泣くな」
と、涙をぬぐう。
「だって……」
自分でも分かるくらい、ひどい顔になっている。
そのまま、また彼の胸に顔を埋める。
……もういいや。
どう思われても。
泣かせたのは、バルスなんだから。
しばらくして、
「オレの伴侶になってくれるか?」
と聞かれる。
コクコクと頷くと、額に唇が触れて、腕の中に強く抱き込まれる。
もっと体温を感じたくて、安心したくて、バルスの胸に頬をすり寄せる。
時折、髪を撫でる手があたたかくて、心地いい。
だめだ、泣きすぎたせいで、眠くなってきた。
でも、寝たくない。
もう少し、この時間に触れていたい。
そう思って少し顔を離すと、小さく欠伸が出る。
バルスはふっと笑って、
「眠いなら、寝ていいぞ」
と、私の頭を胸にもたれかけさせる。
ぼんやりとした意識の中で、ただ甘えたくなって、
「……ずっと……そばに……いて……」
――そこで、意識が途切れた。
もう、離れなくていい。
夕食亭の仕事が終わったあと、私はバルスの家の前に立っていた。
――もう、終わりにしないと……そう思っていた。
「こんな時間にどうした?」
「その、少し、話していいですか」
バルスは私の顔を少し見てから、深くため息をつく。
「少しだけなら」
そう言って家の中へと通してくれた。
明らかに迷惑そうな顔に、あぁ、やっぱりなと思う。
ジェイドさんの言葉に、どこかで期待していた気持ちが、静かにしぼんでいく。
でも、これでいい。
これで、ちゃんと区切りをつけられる。
私はポケットの中の指輪を、ぎゅっと握りしめた。
これを――ちゃんと返さないと。
「ごめんなさい、疲れてるよね。私、これを」
そう言って、ポケットから手を取り出す。
「あのね、これ……返しそびれていたから」
握りしめていた手を、少しだけ躊躇してから開く。
指輪を、バルスへと見せる。
バルスは驚いた表情を浮かべて、私と指輪を交互に見てから、
「それは、ミドリにあげたものだ。いらないなら捨てればいい」
と続けた。
捨てる?
……一瞬、意味が分からなかった。
その言葉が、思った以上に胸に刺さる。
確かに返されても困るかもしれない。
でも――私に、それを捨てられるわけがないのに。
「捨てるなんて……私……っ」
涙が次から次へとあふれてくる。
それでも泣き顔を見られたくなくて、手で顔を覆う。
「ご、ごめ……でも……もらえた時、嬉しくって」
「……好きなの」
「……大好きなの……」
――結局。
そのまま、しゃがみ込んで大泣きしてしまう。
私、何やってるんだろう。
……ほんとに。
バルスが何も言葉を発しないことが、私への返事だと思った。
しばらくして、ハンカチで涙をぬぐい、立ち上がる。
惨めで、恥ずかしくて、それでも。
「ごめんなさい。遅くに……おやすみなさい」
一気に言い切って、ドアへと手を伸ばす。
「……オレは……ミドリのそばには相応しくない……」
その言葉に、ドアノブにかけた手が止まる。
胸に、深く突き刺さる。
……また、振られた。
私が悪い。
振られているのに、好きだなんて。
これ以上惨めな自分を見せないように、深呼吸する。
「あの、もう大丈夫です。本当は分かっていたのに、ごめんなさい。困らせて。明日からはちゃんと、ただの友人に戻るから……今日のことは忘れ――」
そのとき。
気づいたときには、後ろから腕に囲われていた。
「……それでも、オレは――ミドリが欲しい」
「……え?」
頭が、ついていかない。
「オレは騎士だ……何かあれば……いつか、ミドリをまた悲しませるかもしれない」
囲っていた腕が、離れようとする。
私はとっさに、その腕を掴んだ。
「それでも、私は……傍にいて……たくさん抱きしめてほしいです」
言った瞬間、自分で自分にダメージを受ける。
抱きしめてほしいって――
ない。ないから。
「い、今のは……忘れ――」
言い終わる前に、身体が持ち上がった。
久しぶりに、バルスの腕の中に抱き上げられる。
そのままソファへと引き寄せられて、また腕の中に囲われる。
額と頬に、そっとキスが落ちた。
ドキドキしすぎて、頭の中が真っ白になる。
それでも――幸せだった。
「……すまない」
少しして、申し訳なさそうに視線を向けられる。
私は彼の胸に顔を埋めて、こぼれそうになる涙を堪える。
それでも顔を上げて、
「もう大丈夫だから……困らせてごめんなさい」
と、精一杯の笑みを浮かべる。
「違う、ミドリ。オレは……」
バルスはため息をついてから、
「オレが怖くはないのか?」
と、以前と同じ問いを口にする。
言いたいことは分かる。
でも、私の想いは揺らがない。
「私は……貴方が好きで、だから傍にいたいと思って。それじゃあ、だめですか?」
「オレは……またお前を手に入れれば、今度こそどんなに嫌がっても、もう二度と離せなくなる」
強く抱きしめられる。
私はその腕にしがみついた。
「じゃあ……傍にいてください。ずっと、ずっと……」
顔を見上げると、そのまま軽く唇が触れる。
彼は小さく苦笑して、
「もう、泣くな」
と、涙をぬぐう。
「だって……」
自分でも分かるくらい、ひどい顔になっている。
そのまま、また彼の胸に顔を埋める。
……もういいや。
どう思われても。
泣かせたのは、バルスなんだから。
しばらくして、
「オレの伴侶になってくれるか?」
と聞かれる。
コクコクと頷くと、額に唇が触れて、腕の中に強く抱き込まれる。
もっと体温を感じたくて、安心したくて、バルスの胸に頬をすり寄せる。
時折、髪を撫でる手があたたかくて、心地いい。
だめだ、泣きすぎたせいで、眠くなってきた。
でも、寝たくない。
もう少し、この時間に触れていたい。
そう思って少し顔を離すと、小さく欠伸が出る。
バルスはふっと笑って、
「眠いなら、寝ていいぞ」
と、私の頭を胸にもたれかけさせる。
ぼんやりとした意識の中で、ただ甘えたくなって、
「……ずっと……そばに……いて……」
――そこで、意識が途切れた。
もう、離れなくていい。