異世界に来て10年、伝えられないままの片想い

第6章 すれ違ったままの返事――同じ言葉の、違う意味

「オレの伴侶となることを、真剣に考えてくれないか?」

その言葉が、頭から離れない。

その日の夜、私はなかなか寝付けなかった。
あのときのやり取りを、何度も思い返してしまう。

だって――
仕事へ向かうバルスを見送った、あのときのことが、何度も頭に浮かんでしまうからだ。

あんなふうに、さらっと言うから。
まるで大したことじゃないみたいに。

でも、あのときの表情は、全然そんな軽いものじゃなくて。
私は、信じられなさと嬉しさと、いろんな感情が一気に溢れて、――ただ、コクコクと頷くことしかできなかった。

バルスは、そんな私の頭を軽く右手でポンポンと触れて、

「……悪かったな。行ってくる」

そう言って、そのまま王宮へと向かった。

……これって、つまり。
バルスも、私に好意を持ってくれていたってことで――そう思って、いいんだよね。

恥ずかしくて、誰に相談できるわけでもない問いを、自分に向ける。
だって、バルスは基本的に生真面目だし、あんな真剣な表情で嘘なんて言わない。

でも――

「一体、私のどこがいいのかな」

ぽつりと呟いて、ふと鏡に映る自分を見る。
平凡で、地味な私の、どこに。

それに、もし本当にそうだとしても。

――私、誰かと付き合ったことすらないのに。
バルスみたいなすごい人の、伴侶なんて。

……結婚、って。
その、色々あるわけで。

そこまで思い至って、顔が一気に熱くなる。

「……私、大丈夫かな」

思わず、小さく呟く。
嬉しいはずなのに、それと同じくらい不安になる。

すぐ飽きられそうで、というより――幻滅されそうで。
なんとも言えないため息が、こぼれた。

――――――――――

一方で、バルスは。

ミドリへと、とうとう気持ちを伝えてしまったことに、内心ひどく動揺していた。

……大体、ミドリがあんな思わせぶりな冗談を言うからだ。
と、完全な八つ当たりをする。

ミドリが自分を慕ってくれていること自体は、分かっていた。
けれど、それが恋愛感情かといえば――違う気がしていた。

……あれは、刷り込みに近いものだ。
助けられた相手に向ける、信頼や依存。

きっと、そういうものだと、どこかで思い込んでいた。

それに、自分は騎士だ。
それも、最も危険な任務を率先して引き受ける部隊にいる。

いつ死ぬかも分からない男が、ミドリの伴侶であっていいはずがない。

――分かっていたのに。

それでも、半獣人の性質にいつまでも抗い続けることはできなかった。

ミドリを伴侶と認識してから、もう長い。
限界が近いことも、自分で分かっていた。

だからこそ――一年前、あんな失態を犯したのだ。

「……はぁ」

自嘲気味に息を吐く。

結局のところ。
思いを伝えなかった理由なんて、ひとつしかない。

――拒絶されるのが、怖かっただけだ。

この任務が終わったら。
きっぱりと断られたら、遠くの地へ異動願いを出そう。

少なくとも、ミドリは――あんなことを言われて、きっと悩んでいる。
ならば。

せめて、自分のほうから距離を取るべきだ。

――あいつを、これ以上困らせないために。

そう決めた時点で、
もう、同じ場所には立てていないことに――バルスは気づいていなかった。
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