七日の夜の夢
『人間はなぜにこの世にうまれてきたのか…』
哲学しつつ
次元のように後部座席に眠ってた…
「母さんが
いつまで元気か
わからんし…」
父がつぶやく
高速道路
窓を覗けば
狂ったように
荒ぶるコンクリ
マンションの
木々覆われた
鉄筋ビルの
ジャングルやっと
抜け出して
水平線と蒼い空
コバルトの海
広がった

トランクの音
開いた窓から
わだつみの声が聴こえて
海藻と潮の薫りが鼻腔をくすぐる
「さあ起きるのよ降りなさい
ここは全く変わらないわね…」
母が言う
なんだろう
なぜだかここは
見慣れてないのに
奇妙なほどに
懐かしい…
旅路に疲れた車のドアの応えは鈍いが
眠りに覚めた身体は軽い
「おばあちゃん…!」
開け放たれた玄関ポーチの引き戸を渡る
甘く焦げつく
線香の薫りが僕を出迎えた…

「…退屈だ、ちくしょうSwitch家に忘れた…」
潮風が涼しい風を陸に連れてく昼下がり…
実母の礼と近所廻りをしてる両親
縁側で眠る婆ちゃん
「散歩してくる」
そう言い置いて家を抜け出す

子どもの頃の背丈ほどある防潮堤と
テトラポッドのジャングルジムをのりこえて
浜に降り立つ
裸足になって歩いてみると
灼けついた砂がなんだか心地いい

波打ち際で海水を脚に浸(ひた)して
砂浜に体育座りで水平線を眺めてた

そうすると…

上空をなにかが急にかすめていった

「ああ、そのくらい取ってよね!」
なにが起きたかわからずに…
視線を落とすと麦わら帽子がそばに落ちてる…
ふとみると
純白のワンピースを着た
小麦色の肌
白波の煌めく光を瞳に宿した
快活そうな少女が一人こっちをみてた
「田舎じゃなけりゃ傷害未遂だw」
そう言って麦わら拾い手渡すと
その女(ひと)は浜風に乱れた髪を掻き上げた
「そうしてここは田舎でしょ♬
帰省で来たの?
遠藤優実よ…」
「ここの子かい?潮の薫りのいいとこだ…
大野悟だ…よろしく…」
会釈して煙草(ピースライト)を口に咥えて
錆びついたRONSONのオイルライター火をつける
「海しかないわ…広いけど狭い世界よ…」
そう言い彼女は遠くをみつめる
「それがいいのさ…」
ゆっくりと煙を吐いた

平石で水打ちをする
彼女とは
不思議なぐらいすぐ打ち解けた
本来僕は内気であって
ここに来る前ルパンの映画を観ていなければ
そんなにキザな台詞も言わず
そそくさとその場を後にしていただろう
だけどルパンの映画をみてて
次元のように車に揺られ
キザな台詞をその子に語り
麦わら帽子を拾って渡し
こうして二人談笑しながら延々と
日の沈みゆく水平線を眺めてる
それが事実だ
この子はこの子で
ちょっとマンガの
読みすぎなんだ
運命論じゃないけれど
そうなるべくしてそうなったのだ
結果論だが
それでよかろう

「大野くん、大野くんはさ…いつまでここに帰省してるの?」
「しばらくいるさ…」
「あっ、そうだ…ねえ、明日の七夕、村の神社で祭りがあるの」
「そっか…」
「一緒に行こっか…」
「…浴衣で来るなら行ってあげるよ♬」
「もう…泳いでくる…」
遠藤がワンピースを脱ぐ。
驚いたことに遠藤は水着を着てて…
波に飛び込む。
「おい、風邪引くぞ…!」
沈みゆく夕陽を背中に
イルカのように優実は泳いだ…
時おり魅せる
水弾く
胸の膨らみ
腰のくびれが
麗しい
線を描いた
不覚ながらに
息を呑む

「ちょっと冷えたね」
夏の終りの夕べの海水(みず)は流石に身体に堪(こた)えたようで
紫色の唇で彼女は小さく震えてたから
僕は着ていたジャケットで優実を覆った
「家に帰るか?」
「まだ、私…帰りたくない」
…その我儘が愛おしかった…
「焚き火しよっか」
浜辺から枯れ木を集め
砂に転がる紙切れに
オイルライター
暖をとる
パチパチと爆(は)ぜる焚き木の褐色と
紅蓮(ぐれん)の焔(ほむら)
白銀(しろがね)の母なる月が漆黒の闇に輝く
ここには星がまだ生きていた…
「ねえ、大野くん…」
「なんだ、遠藤…?」
彼女は急に思い詰めてる表情になり
「…この火を飛び越えてきて…」
震えるような声でささやく
「えっ…」
驚くと
「…冗談よ…」
寂しそうに君が言うから
「いいよ…」
そう言って
『予定調和』の
四文字熟語が
ぴったり来るよに
僕たちはどこか自然にくちづけをした…

翌日僕は
夢精をしてた

外は晴れでも
僕の心に
雨が降ってる
蜘蛛が静かに
欲望と
悟りの糸で
絡め取ってく
この僕は
穢(よご)れちまった
悲しみに…

遠くへ泳いで
沖波に攫(さら)われていって
しまおうか…
そんな言葉が
脳裏をよぎる
完全に
僕は自信を
なくしてた…

罪悪感に
苛(さいな)まれつつ
遠藤と
二人で僕は夜店を歩く
藤色の桜模様の美しい
浴衣を褒める
余裕さえなく…
遠藤と
金魚掬いした
記憶すらない
脳裏にあるのは

夏祭り
浴衣姿で
戯れし 
君に見惚れる
金魚が揺れた

それだけだった…

気づくと一人家に居た…

君を愛して愛に傷つき
あなたのせいにしている僕は
きっとあなたと同じくらいに
罪深いんだろ…

愚痴をこぼして

吾一人
噛みしめるよに
水を呑む

君の瞳の影にある
そのささやかな眼差しが
僕の心の灯火に
そっと薪を焚べている…だがっ…!

我に帰って
僕は慌てて
スマホを取り出し
誤字脱字
だらけで優実に
交換してたLINEを送り

ない智慧を
振り絞ってからに
閉店間際の
この村に一つしかない
商店へ
駆けて出掛けた

それからしばらく
祖母が眠りし縁側で
遠藤と僕は
二人いすらふ

七日の夜藤色の更紗の浴衣に身を包み
縁側で横座りする君が綺麗で
想わず僕が見惚れていると
夏の夜風の悪戯が
この僕の言葉にならぬ願いを叶え
短冊揺らぎ風鈴が静かに鳴って
巻き上げたうなじを隠して振り返り
恥ずかしそうに君は笑った
ぎこちなく素知らぬふりで君の隣に座った僕は
煙草と共に裏ポケットに忍ばせた
線香花火君に手渡しマッチを擦って
一服のついでを装い戀の火薬に灯を点ける
あてどなく紫煙がくゆる傍らで
こよりの先の焔の蕾がほころんで
牡丹の火花が照らした君は
楚々たる色香に清く煌めき
朧月夜に淡く浮かんだ柔らかな
そのひもろぎに吸い込まれるよに
気づいた時には口吻してた不肖の僕は
この瞬間に時が止まって
永遠に二人でいたい天に祈った
その刹那線香花火は儚く散って
巡りゆく無常の世界をしるすが如く
風鈴がまた静かに揺れた
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