僕とあなたのシゾフレニアSchizophreniaの治し方
闇が深いからこそ人は星をみるのだ。
ーラルフ・エマーソン

『太陽は死に、
スターバースト
アンドロメダ(銀河)がぶつかってきて
ヒートデス
那由多の先には…
理不尽だ…
酒にひたるか…
地獄の季節
宇宙はこんなに乱暴だ…』
哲学しつつ
次元のように後部座席で眼を瞑(つむ)っていた…
「母さんが
いつまで元気か
わからんし…」
ハンドル握る父がつぶやく
高速道路
まぶたを開いて
窓を覗けば
狂ったように
荒ぶるコンクリ
マンションの
木々覆われた
鉄筋ビルの
ジャングルやっと
抜け出して
水平線と蒼い空
コバルトの海
広がった

トランクの音
開いた窓から
わだつみの声が聴こえて
海藻と潮の薫りが鼻腔をくすぐる
「さあ起きるのよ降りなさい
ここは全く変わらないわね…」
母が言う
なんだろう
なぜだかここは
見慣れてないのに
奇妙なほどに
懐かしい…
旅路に疲れた車のドアの応えは鈍いが
眠りに覚めた身体は軽い
「おばあちゃん…!」
開け放たれた玄関ポーチの引き戸を渡る
甘く焦げつく
線香の薫りが僕を出迎えた…

「…退屈だ、ちくしょうSwitch家に忘れた…」
潮風が涼しい風を陸に連れてく昼下がり…
実母の礼と近所廻りをしてる両親
縁側で眠る婆ちゃん
「散歩してくる」
そう言い置いて家を抜け出す

子どもの頃の背丈ほどある防潮堤と
テトラポッドのジャングルジムをのりこえて
浜に降り立つ
裸足になって歩いてみると
灼けついた砂がなんだか心地いい

波打ち際で海水を脚に浸(ひた)して
砂浜に体育座りで水平線を眺めやる

「面白くもないコントみたいな人生が
ー後半へ続く…」

キートン山田の真似をしてると…

上空をなにかが急にかすめていった

「ああ、そのくらい取ってよね!」
なにが起きたかわからずに…
視線を落とすと麦わら帽子がそばに落ちてる…
ふとみると
純白のワンピースを着た
小麦色の肌
白波の煌めく光を瞳に宿した
快活そうな少女が一人こっちをみてた
「きまぐれオレンジロードかよw
田舎じゃなけりゃ傷害未遂だw」
そう言って麦わら拾い手渡すと
その女(ひと)は浜風に乱れた髪を掻き上げた
「そうしてここは田舎でしょ♬
帰省で来たの?
遠藤優実よ…」
「ここの子かい?潮の薫りのいいとこだ…
大野悟だ…よろしく…」
会釈して煙草(ピースライト)を口に咥えて
錆びついたRONSONのオイルライター火をつける
「海しかないわ…広いけど狭い世界よ…」
そう言い彼女は遠くをみつめる
「それがいいのさ…」
ゆっくりと煙を吐いて
「スキゾフレニアSchizophrenia、いわゆる統合失調症の患者は自然療法がいいらしい…」
「統合をしてないならばくっついちゃえばいいだけよ」
君が言うから
「その発想はなかったw」
苦笑する

平石で水切りをする

彼女とは
不思議なぐらいすぐ打ち解けた
本来僕は内気であって
ここに来る前ルパンの映画を観ていなければ
そんなにキザな台詞も言わず
そそくさとその場を後にしていただろう
だけどルパンの映画をみてて
次元のように車に揺られ
キザな台詞をその子に語り
麦わら帽子を拾って渡し
こうして二人談笑しながら延々と
日の沈みゆく水平線を眺めてる
それが事実だ
俺もそうだが
この子もこの子で
ちょっとマンガの
読みすぎなんだ
運命論じゃないけれど
そうなるべくしてそうなったのだ
結果論だが
それでよかろう

「大野くん、大野くんはさ…いつまでここに帰省してるの?」
「しばらくいるさ…」
「あっ、そうだ…ねえ、明日の七夕、村の神社で祭りがあるの」
「そっか…」
「一緒に行こっか…」
「…浴衣で来るなら行ってあげるよ♬」
「もう…泳いでくる…」
遠藤がワンピースを脱ぐ。
驚いたことに遠藤は水着を着てて…
波に飛び込む。
「おい、風邪引くぞ…!」
沈みゆく夕陽を背中に
イルカのように優実は泳いだ…
時おり魅せる
水弾く
胸の膨らみ
腰のくびれが
麗しい
線を描いた
不覚ながらに
息を呑む

「ちょっと冷えたね」
夏の終りの夕べの海水(みず)は流石に身体に堪(こた)えたようで
紫色の唇で彼女は小さく震えてたから
「家に帰るか?」
僕は着ていたジャケットで優実を覆った
「まだ、私…帰りたくない」
複数の青黒き痣(あざ)を体躯(たいく)に認める
「体の痣が関係あるのか…?」
遠藤は押し黙ったが、
「…私の父が再婚で…継母が、優しいふりをしているの、みんなの前だけ…」
やがては重い口を開いた…
「…私の父も…」
「もう言うな!
…焚き火しよっか…」
浜辺から
砂に転がる紙切れと
枯れ木を集め
暖をとる
パチパチと爆(は)ぜる焚き木の褐色と
紅蓮(ぐれん)の焔(ほむら)
白銀(しろがね)の母なる月が
漆黒の闇に輝く
アルクトゥルスが緋に天蓋を切り裂いて
夏の星座が星空に銀の刺繍を施している

…ここには星がまだ生きていた…

「…ねえ、大野くん…」
「なんだ、遠藤…?」
彼女は急に思い詰めてる表情になり
「…この火を飛び越えてきて…」
震えるような声でささやく
「えっ…」
驚くと
「…冗談よ…」
寂しそうに君が言うから
「いいよ…」
そう言って
みつめあってた…

プラトニックな恋をした

翌日僕は
夢精をしてた

精子のついた
ボクサーパンツと
穢れた身体を
シャワーで洗い
想わず僕は嗚咽(おえつ)した

愛とかなんとかいったって
所詮子孫を遺したい
利己的な遺伝子の罠
この肉体は
知らず知らずに操られ
恋という名の
道化芝居を演じてるのさ
こいつがまさに
太宰も書いた
道化の悲しみ

外は晴れでも
僕の心に
雨が降ってる
欲望と
悟りの糸で
絡め取られる
この僕は
穢(よご)れちまった
悲しみに…

文字通り
あいつが好きなこの俺と
あいつとヤリたいこの俺が
この俺の中で分裂してる
この俺はスキゾフレニアSchizophreniaなのやもしれぬ…

…結局は…
…アイツのオヤジと変わりはしない…
…俺は病んでる…

遠くへ泳いで
沖波に攫(さら)われていって
しまえば楽になれるのだろうか…
そんな想いが
脳裏をよぎる
完全に
僕は自信を
なくしてた…

そして夜…

罪悪感に
苛(さいな)まれつつ
遠藤と
二人で僕は夜店を歩く
藤色の桜模様の美しい
浴衣を褒める
余裕さえなく…

チョコバナナを買い可愛い声で
「物売るってレベルじゃねーぞw」
笑わせようとしてくれたのに
ツッコミを入れる余裕もまるでなく
遠藤が
金魚掬いした
記憶すらない
脳裏にあるのは

夏祭り
浴衣姿で
戯れし
君に見惚れる
金魚が揺れた

残像のよな
いつしか既視感(デジャヴ)になるような…
それだけだった…

「…大野くんのシゾフレニアSchizophreniaは重病ね…」
強烈なパンチを遺して彼女は去った…

気づくと一人家に居る…

君を愛して愛に傷つき
あなたのせいにしている僕は
きっとあなたと同じくらいに
罪深いんだろ…

…俺は病んでる…

吾一人
噛みしめるよに
麦酒(さけ)を呑む

テレビをつける
キャンプで焚火を囲んでる

僕の脳裏に
灼きついていた
震える君が甦る…

君の瞳の影にある
そのささやかな眼差しが
僕の心の灯火に
そっと薪を焚べている…
だがしかし…!

『飛び越えてきて…』

「そういうオマエは潮騒病だ…バカ野郎…!」

我に帰って
僕は慌てて
スマホを取り出し
誤字脱字
だらけで優実に
交換してたLINEを送り

ない智慧を
振り絞ってからに
閉店間際の
この村に一つしかない
商店へ
駆けて出掛けた

それからしばらく

祖母が眠りし縁側で
遠藤と僕は
二人いすらふ

遠藤は困ったように
素知らぬふりで
僕をみつめた…

僕とあなたのシゾフレニアSchizophreniaの治しかた…

七日の夜藤色の更紗の浴衣に身を包み
縁側で横座りする君が綺麗で
想わず僕が見惚れていると
夏の夜風の悪戯が
この僕の言葉にならぬ願いを叶え
短冊揺らぎ風鈴が静かに鳴って
巻き上げたうなじを隠して振り返り
恥ずかしそうに君は笑った
ぎこちなく素知らぬふりで君の隣に座った僕は
煙草と共に裏ポケットに忍ばせた
線香花火君に手渡しマッチを擦って
一服のついでを装い戀の火薬に灯を点ける
あてどなく紫煙がくゆる傍らで
こよりの先の焔の蕾がほころんで
牡丹の火花が照らした君は
楚々たる色香に清く煌めき
朧月夜に淡く浮かんだ柔らかな
そのひもろぎに吸い込まれるよに
気づいた時には口吻してた不肖の僕は
「待っていてくれ、迎えに行くから…」
この瞬間に時が止まって
永遠に二人でいたい天に祈った
その刹那線香花火は儚く散って
巡りゆく無常の世界をしるすが如く
風鈴がまた静かに揺れた

…ぼくらの治療は、これからだ…
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