ぼくと世界とキミ
「貴方……いつも泣きそうな顔をしてる」
その女の言葉に足が止まった。
……そんな事を言われたのは初めてだった。
厳しい父の教え。
感情を表に出す事は、他人に弱さを見せる事だと子供の頃から言われ続けた事を思い出す。
両親に甘える事は許されず、友人をつくる事も禁止された。
《守らねばならないモノが増えるほど、それはいつしか自身を飲み込み共に朽ちる事になる》
……父の持論だ。
成長するにつれ、いつの間にか城の者には《人形》と呼ばれてしまうほど、俺は感情を表に出さなくなっていた。
そんな俺が……泣きそうな顔をしているとこの女は言う。
心の奥深くに沈めていた筈の《何か》を暴かれた様な気がして……急に不安になった。
グッと拳を握り締めると、そのまま女を無視して逃げる様に馬に跨る。
「私もよくここに来るの。……また会えるといいね」
女はそう言って優しく笑うと、俺に向かって小さく手を振った。