ぼくと世界とキミ

「……くだらない質問をしたな。すまない」

俯きカタカタと拳を震わせる俺を見てジルは小さく呟くと、悲しそうな顔をした。

……強く……強く……拳を握りしめる。

爪が手の平に食い込み、真っ赤な血が流れ、地面に虚しく滴り落ちる。

「何も……守れないんだ。勇者のくせに何もできなくて……自分でもどうしたらいいのか分らないんだ。逃げ出したいのか……復讐したいのか。勇者になりたいのか……なりたくないのか。……もう……分らないんだよ」

声を震わせそれだけ言うと、ジルは何も言わないまま俺を見つめていた。

俯き強く拳を握り締めたまま、時間だけがゆっくりと静かに進んでいく。

時折俺の傍を優しい風が吹き、その風に揺られて森の木々がさわさわと囁いていた。
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