「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

ドーナツ作り。

 さて、と。
 うでまくりしてキッチンに立つ。
 新しいドーナツが作りたい。アランさんにはそう許可をとってある。
 何かを変えないとこのままじゃいけないっていうのはアランさんにもあったみたいで、そこをつついてなんとか了承してもらえた。
 あたしのことを恩人だと思って信用してくれたのもあったのかも。そこのところは本当にうれしいな。
「どんなドーナツだい?」
 っていうから、グレーズでコーティングしたものと粉糖にまぶしたのだよって話したけど、そういう発想は今まで無かったみたい。
 甘いドーナツっていったら生地にあらかじめお砂糖たっぷり入れて甘くするって意識しかなかったそう。今あるものはお砂糖はずいぶんケチって果物とかの甘味を使ってるあっさり目のほんのり甘い程度のドーナツだけど、これ実はお砂糖が高騰してから考えた苦肉の策だったそう。
 本当はもっと甘いドーナツを出したかったんだって、そうもらしてた。
 まあ去年に比べたらお砂糖のお値段も随分とこなれてきて、相変わらずお高くはあるけどそれでも当時に比べ値段は下がってる。
 今ならそこまでケチらなくても大丈夫じゃない? って聞いてみたらなんと返ってきた言葉にびっくり。
 実はお砂糖は去年の高騰してる時に買い溜めして、倉庫に山ほど残っているんだとか。
 お金貸してくれておまけに大量のお砂糖を融通してくれたのもロック商会。
 要は高値で大量のお砂糖をつかまされたわけ。ほんとうにアランさんって人がいいというかなんというか。
 でもってそのあとはそのお砂糖、原価が高くなっちゃうからあんまり使えないってジレンマのままいまだにほとんど残ってて。かといって今売ったって借金返すには程遠い、だなんて話。

 しょうがないなあって思いつつも、
「今使わないでどうするっていうんですか!? お砂糖の山残したまま潰されちゃったら元も子もないじゃないですかー」
 って、納得させ新しいドーナツに使わせてもらうことにしたの。
 まあでも。
 最初のグレーズと粉糖は普通に倉庫のお砂糖から作るけれど、あとはあたしのポーション魔法で補填していくつもり。そうすれば随分と原価を抑えられるから利益もでる。お砂糖の買い足しは避けたいし。
 あ、なら最初からあたしの魔法で良かった? なんてことも考えた。
 けどやっぱりそれじゃダメ。何よりも不自然だし、それにこのやり方なら今回の件がうまく片付いてあたしが居なくなったとしても続けていけるだろうから。

 ドーナツの生地はいつもと同じものを用意してもらった。
 それをシートの上で麺棒で伸ばしてからドーナツの型で抜き揚げていく。
 この辺は前世でも経験あるから問題なくできた。

 そしてグレーズ。
 お砂糖を臼で挽いてキメを細かくしてでんぷん粉を混ぜお湯で溶かす。
 はちみつもあったからそれをちょっとだけ混ぜて味を調整してできあがり。
 熱々のドーナツにまわしかけたらうすーく伸びて自然に固まる。
 半透明なグレーズでコーティングされたドーナツは、甘味も上品でとっても美味しいの。

 粉糖は、これはさっきの臼で挽いたお砂糖にでんぷん粉を混ぜたもの。
 でんぷん粉は穀物粉に混ぜガレットにしたりと庶民の味方の食材としてお安く流通してる。
 お店にも普通に常備されてたからそれを使って。

 人肌にさめたドーナツを粉糖にまぶすと、ふんわりとした甘さのシュガードーナツの出来上がり。
 お砂糖色に白く色づいたドーナツは、すごくおいしそうに見えるし人気も出そうだ。

 見本でできたドーナツをお皿に並べて満足して。
 朝になったら味見をしてもらおう。
 そう思ったら安心したのか眠気が襲ってきた。

 ドーナツができあがった満足感にふふって笑みが溢れ、あたしはそのまま寝袋に潜り込んだのだった。

 ♢ ♢ ♢

 そういえば。
 あたしの特技のポーション魔法、水魔法と聖属性の魔法の組み合わせみたいなものかな。
 ポーションは水薬だから、グレーズの再現は簡単にできた。
 でもここで一つ問題があって。

 実は、あたしの作ったポーションは、お鍋で煮詰めると最後は何も残らず消えてしまうのだ。
 砂糖水を煮詰めるとカラメルができるでしょ?
 だけどあたしの砂糖水っぽいポーションは、煮詰めたら水分が蒸発してしまい、最後は何も残らないの。

 だから、純粋に砂糖のようなものを作りたいと思っても無理だった。お塩もね。

 そこで子供の頃のあたしは考えた。
 あたしの能力は水薬だけなの? 粉薬は作れないの? って。
 試行錯誤した結果、水薬が作れるのは水魔法でお水を精製できるからってことに気がついたあたし、なら粉薬を作るベースがあればいいんじゃないかなって考えた結果、でんぷん粉に薬効をのせることに成功したのだった。

 そう、いろんなお味のでんぷん粉が作れたの。あ、ポーションにちゃんと本物と同じ色がつけられるのと一緒で、粉薬にもいろんな色がついてきた。薬効は少しだけ元気になる程度にいつも抑えてたけど、作ろうと思えば普通にいろんな粉薬も作れたんだけどね。
 んで。お砂糖もどきも、お塩もどきも、胡椒や唐辛子だってこれで作れた。
 今回の粉糖やグレーズの補填にも、このでんぷん粉が大活躍することになったのだ。
< 12 / 13 >

この作品をシェア

pagetop