「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

見知らぬ天井。

 はっと気がつくと。
 見知らぬ天井。

 救護施設?

 簡素なベッドに寝かされているのに気がついたあたし。

「ここは……」

 周囲を見渡すとそこは麻のカーテンで仕切られ部屋全体を見ることはできなかった、けれど。
 随分と広い場所だな。
 そんな感想を持って。

「あ! ミスターマロンのおじさんは!!?」

 悪漢が放ったチェーンの鞭によって砕けたショーケース。
 その破片から店主さんを守るように庇ったところまでは覚えている。けど。
 そのあとがどうもはっきりしない。
 意識をうしなったのは間違いない。すーっと血の気が引いたと思ったら、意識が飛んだ。
 心のゲートからマナを放出する加減を間違えたのかな。あれっぽっちの魔法に、ちょっと魔力を込めすぎたのだろうか。
 どっちにしても急激にマナが減ったせいで意識が飛んでしまったのはまず間違いない。
 もうちょっと魔法の使い方も訓練しないとかな。
 そんなことも考える。

 あたしの主属性は水。
 水神バアルの加護があるって、教会で言われたっけ。
 実際はほぼほぼ全ての属性が使える全属性ではあるんだけど、特にバアルには好かれているらしい。
 っていうか今ここにもバアルはいる。
 あたしの目には青い清浄な光の粒に見えるそんなバアル達。
 無数のバアルがあたしの周りを飛び回ってるんだけど、どうやら他の人には見えないらしい。

 他にも風のアウラや火のアークなんかも飛んでいる。
 っていうかこういう魔法属性を司る妖精みたいなのはこの空間にいっぱい有って、普段はどこかに隠れているみたい。
 誰かが魔法を使おうとしてマナを熾すとわらわらと寄ってきて、マナが魔法になるのを助けてくれる、そんな存在なのかな。
 学園で学んだ魔法学ではそういう存在を「ギア」と言って、彼らの力をより引き出すことができる才能のことを、「魔力特性値」という値で測っていた。別名、マギアスキル、という。
 マナをギアに与え魔法を行使すること。これを「マギア」と呼ぶ。
 そんなマギアを操るスキルの才能。それがマギアスキル、魔力特性値というものだったのだ。

 あたしは自分の体の調子を確認するようにベッドの上で両腕を頭の上に伸ばし、そのまま伸びをした状態のまま左右に傾けてみた。
(うん。大丈夫、そう?)
 特に問題がありそうには思えない。痛いところもどこにも無いから怪我だってしていないみたい。

 あの騎士の人たちが助けてくれたんだろうか……。
 倒れる直前に、騎士服をきた数人がお店の中に入ってきたのは気がついていた。

(どうしよう)

 家出をしてきたばっかりのあたし。
 見かけだって言葉遣いだってフランクにしてるし貴族だって気が付かれるとは思わないけど、もしバレても厄介だなぁ。
 そんなふうにも考えて。

 ああ、そりゃあね?
 流石のあたしだってお嬢様をしている時は外面には気をつけてたから、ちゃんと「わたくし〜」ってお嬢様言葉を使ってたし今みたいな粗暴に見える歩き方もしてこなかった。

 だってね。貴族のお嬢様は重いもの一つ持ったことは無いし、そもそも乱暴な歩き方もしなければ走ったりもしない。静々と移動しまるでお人形のように動く。そんな教育を長年受けてきたんだったしね。
 心の中でこんな喋り方をしてたのが今にして思えば少し残っていた前世の意識だったんだろうって思うと感慨深いところはあるけど、こういう仕草をしている限り、まあ良いとこ商人のお嬢くらいにしか思われないだろうな。って変な自信はあったのだ。

(髪の色だって目の色だって変えてるんだもん、大丈夫、大丈夫)

 そう心を落ち着かせ改めて部屋を見渡す。
 天井も簡素だし、貴族が住む屋敷にも思えない。

 ベッドもとっても簡素な物だったしどこか街中の救護施設か何かに運び込まれたのかな? とか考えたけどそれにしても妙に静かだ。
 一般の平民の施設ならもっとうるさいだろうに。

 とりあえず起き上がりベッドから降りる。床にはあたしのズック靴もちゃんとならべて置いてあった。
 カーテンを開けてみると、やっぱりいくつものカーテンで仕切られただたっ広い空間。
 天井は高いし、なんだか日本の学校の体育館のような場所をカーテンで仕切っただけのそんな場所のようだった。

「すみません! どなたかいらっしゃいませんか?」

 黙って出て行くことも考えたけど、ここが軍か何かの施設だった場合がめんどくさい。
 あたしを保護し介抱してくれたのは事実。
 であれば黙っていなくなったら逆に不自然に思われ身元を厳しく調べられる可能性もあるし。

(お礼を言って出て行くのが無難かなぁ?)

 そんなふうに考えて。

「ああ、気がついたのかい?」

 ハッとして声のした方を振り向くと、金色に輝く美麗な男性が立っていた。
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