第一印象最悪の彼が、最愛の旦那さまになりました
 千咲は椅子を引いて彼から距離を置く。

 駿介は「はは」とどこか馬鹿にしたように笑った。

「お前ついてるな! 俺に振られてすぐに社長と結婚して玉の輿にのるなんて!」
「何が言いたいの?」
「何がって事実だよ。今どんな気分だ? 俺と別れてよかったって思ってるのか?」

 駿介が顔を近づけてきた。彼の息はアルコールの臭いに塗れている。

「駿介、かなり飲んだんでしょ?」

 悪酔いしている。駿介は浮気をするような人だったけれど、普段は紳士的な態度だった。営業部の社員だけあって、コミュニケーション能力があり、爽やかな印象だった。

 こんなふうに酔っ払って、誰かに絡むような人ではなかったのに。

「駿介、今日はもう帰った方がいいよ。これ以上飲んだら醜態晒すよ」

 彼の態度を見かねた彩香が忠告した。

「うるさいな。俺の自由だろ?」

 駿介が突き放すように言ったが、彩香は簡単に引き下がらない。

「自由だとしても、千咲にだる絡みするな!」
「は? ちょっと話してただけだろ?」
「どうして自分から振ったくせにしつこくするの? もしかして今さらく惜しくなった?」

 彩香と駿介がテーブルを挟んでにらみ合う。

 そのとき、千咲のスマホのメッセージの着信を告げた。

 確認すると澄春からで、あと五分で到着するとのことだった。

「水無瀬社長から?」

 彩香の問に、千咲は頷いた。

「あと五分で着くって」
「水無瀬社長がここにくるのか?」

 千咲と彩香のやり取りを聞いていた駿介の顔が強張った。

「そうよ。千咲を迎えにね。駿介は早く帰った方がいいんじゃない? 千咲に絡んでいるところを見られたら大変なことになるかも」

 彩香が警告するように言うと、駿介の顔色がみるみる悪くなる。しかし千咲と目が合うと、ここから離れないとでもいうように、腕を組んで椅子に背を預けた。

「大変なことってなんだよ。なにも悪いことしてないだろ?」
「ふーん、後で後悔しないといいけど」
「するわけないだろ。むしろ社長にお近づきになる機会じゃないか。気に入られたら出世できるかもな」

 千咲は駿介の言葉に違和感を持った。

(出世とか野心がある人だったのかな? そんな印象はなかったんだけど)

 膠着状態が続く中、澄春がやってきた。

 予定よりも早い到着だ。

「澄春さん」

 千咲は立ち上がって彼を迎えた。

 彩香と駿介の顔が緊張に強張る。

「早く着きすぎたか?」

 澄春が千咲を見つめて言う。
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