恋煩いの処方箋
3.困った迷子
3.困った迷子

 梅雨が明け、早々と夏の足音が聞こえてくる。和花に長袖を着せようか、半袖にしようか毎朝頭を悩ませている。
「のんは、これが好き!」
お気に入りのプリンセスがプリントしてあるトレーナーを引き出しの奥から引っ張り出す。
「これはさすがに暑いんじゃないかな?」
「あつくないもん!」
 最近、和花の反抗が激しい。と言うのも、大和に会いたいという和花の願いをごまかし続けているからなのだ。普段なら話せば理解する和花も、この件だけは譲らなかった。
しまいには、「ママ嫌い」と宣言されてしまう始末。そこまで言われても、私は頑なだった。
あの日、大和がうちに来た日。杉崎さんの話を聞いて、大和の勤める病院のホームページを検索した。すると、救急科のページに島津沙也香という女性医師が載っていた。彼女は大和と同じ医大出身の二年先輩。他の医師に、大和と同じ大学の出身者はいない。大和は先輩に誘われてこの病院に来たと言っていたから辻褄が合う。美人で、医師で、大和が信頼を寄せる女性。私に勝ち目なんてない。それに、この女医さんと結婚した方が、公私共に支え合うことができる。だからこそ、私たち親子が大和の人生の枷になってはいけない。だから、これまで通り、暮らすだけ。それでも充分幸せだったから大丈夫。
 結局、トレーナーの下に半袖を着せて保育園へと送り届ける。それから、職場へと向かった。
 私の仕事は市民課の窓口業務。住民票の発行や住所変更、マイナンバー関係の手続きを主に行っている。転入転出の多い三月四月と九月は忙しさのピークで、残業も発生する。そんな時は母に頼ったりする。じいじとばぁばにこれでもかと言うくらい甘やかしてもらえるから、和花は喜んで母の不在を受け止める。本当に助かっていた。
 お昼の休憩時間が過ぎ、書類の整理などをしていると外線電話が鳴った。私は自分のデスクの受話器をあげる。
「はい、市民課です……」
『ひだまり保育園の中元です。間宮和花ちゃんのお母様を、お願いしたいのですが……』
保育園からだった。しかも園長先生直々にかけてくるなんて、嫌な予感が湧いてくる。
「私です。いつもお世話になっております」
『大変申し訳ないございません。実はのんちゃんがいなくなってしまって』
「えっ……」
そんなことが起こり得るのだろうか。保育園の何処か隠れているだけではいないのか、事実として受け止めきれなくて、絶句したまま園長先生の話を聞く。
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