恋煩いの処方箋
1.愛しい人の面影
1.愛しい人の面影
年々ランドセルを選ぶ時期が早まっているらしい。ゴールデンウィークを目前にして私は両親と連れ立って市内のショッピングセンターを訪れる。
「のんはこれにする」
水色のランドセルを指さすと、そうかそうか、とじいじが棚から降ろして背負わせる。まだ五歳の小さな背中には不釣り合いの大きなランドセル。来年の今頃はこれを背負って小学校へ通っているなんて想像すらできない。つい最近年長さんになったばかりだというのに。
「のんちゃん、ピンクもかわいいわよ」とばぁばが言うと、「じゃあ、それも買って」なんて言ったりする。まだまだ甘えたがりの子供だ。売り場の店員さんに「今日はパパはお仕事かな?」と聞かれ、にこりと笑ってやり過ごす。そんな彼女の気持ちを推し量ろうとする度、胸が苦しくなる。母親の私にすら知りえない葛藤を繰り返してきたのだろう。娘の和花(のどか)には父親がいない。
六年前の冬に大好きな人と初めての夜を過ごし、その数か月後に妊娠していることが判明した。この事実を知らせたらきっと責任を取るというだろう。医者になるために頑張っている彼の足枷にはなりたくなくて、でも産まない決断もできなかった。なによりも私が大和との赤ちゃんに会いたいと思ってしまったから。私は未婚のままこの子を産んだ。
ありがたいことに両親は私の決断を認め、サポートするといってくれて、私と同等、いやそれ以上に子育てを楽しんでくれている。今日だって近所の人から『ラン活』と言う言葉を聞いてきてみんなで見に行ってみようと言ってくれたのだ。
これまで本当に恵まれた環境でこの子を育てることが出来ている。独り身ではあるけれど寂しいと思うこともない。守るものがあればどんな時も強くいられる。この子がいれば仕事も頑張ることが出来るし、毎日が幸せだ。
「ねえ、ママ。ママはどっちが好き?」
和花は私を見上げて聞く。涼し気な目元とキュッと上がった口角、艶やかな黒髪。この子の癖やしぐさ、そのどれもが大和にそっくりだ。私はたぬき顔で栗毛のくせ毛なので全く似ていないといっていい。彼を知る同級生はあえて口を噤むが、父親がだれなのか気付いているのかもしれない。
「ママはねぇ、のんが好きなものならなんでも好き!」
そう答えると和花は「ちゃんと答えて!」と口をとがらせる。
「ごめんごめん。ママは水色が好きかな」
「じゃあ、みずいろにする!」
それからステッチの色や内側のデザインを選ぶ。数か月後に納品されるという。持ち帰れないと知り残念がっていたけれど、保管場所に困るので私は密かにほっとした。
年々ランドセルを選ぶ時期が早まっているらしい。ゴールデンウィークを目前にして私は両親と連れ立って市内のショッピングセンターを訪れる。
「のんはこれにする」
水色のランドセルを指さすと、そうかそうか、とじいじが棚から降ろして背負わせる。まだ五歳の小さな背中には不釣り合いの大きなランドセル。来年の今頃はこれを背負って小学校へ通っているなんて想像すらできない。つい最近年長さんになったばかりだというのに。
「のんちゃん、ピンクもかわいいわよ」とばぁばが言うと、「じゃあ、それも買って」なんて言ったりする。まだまだ甘えたがりの子供だ。売り場の店員さんに「今日はパパはお仕事かな?」と聞かれ、にこりと笑ってやり過ごす。そんな彼女の気持ちを推し量ろうとする度、胸が苦しくなる。母親の私にすら知りえない葛藤を繰り返してきたのだろう。娘の和花(のどか)には父親がいない。
六年前の冬に大好きな人と初めての夜を過ごし、その数か月後に妊娠していることが判明した。この事実を知らせたらきっと責任を取るというだろう。医者になるために頑張っている彼の足枷にはなりたくなくて、でも産まない決断もできなかった。なによりも私が大和との赤ちゃんに会いたいと思ってしまったから。私は未婚のままこの子を産んだ。
ありがたいことに両親は私の決断を認め、サポートするといってくれて、私と同等、いやそれ以上に子育てを楽しんでくれている。今日だって近所の人から『ラン活』と言う言葉を聞いてきてみんなで見に行ってみようと言ってくれたのだ。
これまで本当に恵まれた環境でこの子を育てることが出来ている。独り身ではあるけれど寂しいと思うこともない。守るものがあればどんな時も強くいられる。この子がいれば仕事も頑張ることが出来るし、毎日が幸せだ。
「ねえ、ママ。ママはどっちが好き?」
和花は私を見上げて聞く。涼し気な目元とキュッと上がった口角、艶やかな黒髪。この子の癖やしぐさ、そのどれもが大和にそっくりだ。私はたぬき顔で栗毛のくせ毛なので全く似ていないといっていい。彼を知る同級生はあえて口を噤むが、父親がだれなのか気付いているのかもしれない。
「ママはねぇ、のんが好きなものならなんでも好き!」
そう答えると和花は「ちゃんと答えて!」と口をとがらせる。
「ごめんごめん。ママは水色が好きかな」
「じゃあ、みずいろにする!」
それからステッチの色や内側のデザインを選ぶ。数か月後に納品されるという。持ち帰れないと知り残念がっていたけれど、保管場所に困るので私は密かにほっとした。