綾小路くん、距離近いです……っ

《 ずっと前から 》

《 Side:綾小路 葵 》

早乙女 美結。

前から気になっていた。

男子から好かれそうな容姿、愛らしい雰囲気。

本人は気づいていなさそうだったが、男子に莫大な人気がある彼女。

最初に話したのは、俺が放課後の時、人気がない廊下で資料を運んでいた。

「あ、あの...、大丈夫ですか...?」

心配そうに上目遣いで見つめてくる早乙女。

最初は俺に媚びを売るためだと思ったが、本当に心配そうな目で俺を見つめてくる早乙女は、かなり無自覚の破壊力があった。

でもそれを表に出したくはない。

「別に。平気だから。」

そう言って一度止まった足を動かそうとして一歩踏み出した時、

「だ、だめですっ...!私も持ちますっ...!」

譲らないというように資料の半分を持った早乙女。普通逆だろ、と思ったが、少しよろめきながらも純粋な笑顔で笑いかける早乙女が、不覚にも魅力的に見えた。

その日から早乙女を目で追ったり、意識するようになった。

そして数週間経ったある日、昼休みに無意識に人気のない廊下を通りかかると、女子生徒が男子生徒に壁ドンされていた。俺は特に無感情で通り過ぎようとした。

すると、壁ドンしている男子生徒の声が聞こえた。

「なぁ早乙女。俺ずっとお前のこと好きでさ...」

早乙女?

彼女の名前を聞いた途端、気づいた時に俺は男子生徒の手を掴んでいた。

はっと我に返るが、静かな怒りが自分の心に灯っているのは確かで、ここで引くわけには行かなかった。

「おい、お前何やってんの?」

自分でも想像のつかない低い声が出た。

男子生徒は完全にビビって、俺が手を乱暴に離すと、脱兎のごとく逃げていった。

俺は振り返るのを躊躇った。

もしかしたら怯えられているかもしれない。

そういう自分の情けない恐怖を断ち切って、振り返ってみる。

「...大丈夫か?」

早乙女は潤んだ瞳で俺に抱きついた。

2、3秒処理が追いつかなかったが、抱きつかれたと理解した瞬間、耳に熱が行くのが分かった。

俺は思わず顔を背ける。

「...?」

早乙女は首を傾げてこちらを見上げてくる。

その無防備の可愛さを直視してしまい、そろそろ心臓が持たなくなってきた。

しかもあんまり話したことない異性に抱きつくとか...無防備に程がある。

ていうか俺以外に抱きつかないで欲しい。

「綾小路くんっ、ありがとうっ...!」

そう言って俺の胸に顔を埋めてくる早乙女。

やばい。可愛すぎる。

抱きしめたい衝動をなんとか抑え、俺は早乙女の頭に顎を置いた。

それだけで心臓が跳ねるというのに、早乙女はそれ以上にビクリと体が跳ねていた。

その様子に僅かに口角が上がった。

小動物みたいで可愛い、と思う。

俺の柄じゃないと思うが、好きと言う気持ちは抑えられない。

......ん?

俺今早乙女の事好きって言ったか?

自覚した途端顔が赤くなる。

それを隠すように早乙女の頭に顔を埋める。

早乙女は驚いていたが俺は気にかけるどころじゃない。

あー、もうマジで.....

どうすればいいんだよ......

一人心の中でため息をつくのだった。
< 2 / 6 >

この作品をシェア

pagetop