銀色の雲の上
第30話 ゲオルグ
(またアイツが来ている)
ゲオルグはチッと舌打ちをした。子ども部屋の窓から、小屋の灯りを見下ろしている。
(一体、二人で何を話しているんだ?)
最近になってアレクサンダーがミハエルの小屋に出入りしていることに気がついた。
使用人たちに確認してみたが、誰一人気がつかなかったという。
はたして本当か疑わしいが、咎めるつもりはない。
冷厳な父に比べ、この屋敷では温情厚い息子として通しているからだ。
(それにしても、気に食わない)
窓の外を覗き込む。
ゲオルグは苛立っていた。
あの高貴な編入生がなぜかミハエルを気に入っていることも、小屋に通い詰めていることも、なにより、その状況を易々とミハエルが受け入れていることも、何もかもが気に食わない。
アレクサンダーがたびたび教室でミハエルに話しかけている姿は見かけていた。
アレクサンダーは最初こそ級友たちとの会話にミハエルを引っ張り込もうとしていたが、そっけなくされて諦めたものだと思っていた。
二人が廊下で真剣な顔で話すのを見かけたことがある。
正確には見かけたのではなく、後ろをつけて行った。
陰から一部始終を伺うと、最終的にミハエルがアレクサンダーを突き放したので安心した。
ミハエルはいつだって級友たちと馴れ合わない。
ゲオルグがそう仕向けている。
それなのに、何も知らないアレクサンダーが授業終わりにたびたびミハエルに話しかける。
さりげなく彼らの様子を目で追っていたが、見る限りアレクサンダーが一方的にミハエルにかまうばかりで二人が馴れ合っている素振りはなかった。
こちらが詮索していることを知られてはならない。
二人のことは様子見程度にとどめていた。
それがまさか、自宅の敷地内に入り浸っているとは。
いつの間にそこまで距離を縮めていたのだろう。
泳がせていたつもりが、完全に見逃していた。
(迂闊だった)
ゲオルグは苛立ちのあまり、ギリギリと親指の爪を噛んだ。
木戸の扉が開き、灯りが小さく漏れる。
アレクサンダーとミハエルが親しげに小屋から出て来た。
ミハエルがちらりとこちらを見上げるのが目に映る。
ゲオルグは咄嗟にカーテンの陰に身を隠した。
木戸はすぐさま閉められ、二つの影が闇に紛れた。
ミハエルはおそらくわざと角灯を持たないのだ。
こちらに見つからないように。
そう思うとゲオルグは余計に腹立たしくなった。
ゲオルグは目を凝らした。
本宅からぼんやりと漏れる薄明りを頼りに二人の影を目で追う。並んだ影が徐々に裏門まで動いていく。
ミハエルは律儀にもアレクサンダーを見送ってやるつもりらしい。
ゲオルグはグイッと眼鏡を押し上げて、鼻をフンと鳴らした。
コソコソしたところで、全てお見通しだ。
(アイツに嗅ぎつけられたら厄介だ)
アレクサンダーは実に毅然とした人物だ。
こちらのやり方が知れたら、アレクサンダーはその正義感によって真正面から立ち向かってくるだろう。
(とっとと仲を引き裂いておかないと)
効果的にミハエルを打ちのめすには、こちらが不利にならないよう周到にけしかけなければ。
ゲオルグは目を仄暗く光らせて、部屋の奥へと消えていった。
ゲオルグはチッと舌打ちをした。子ども部屋の窓から、小屋の灯りを見下ろしている。
(一体、二人で何を話しているんだ?)
最近になってアレクサンダーがミハエルの小屋に出入りしていることに気がついた。
使用人たちに確認してみたが、誰一人気がつかなかったという。
はたして本当か疑わしいが、咎めるつもりはない。
冷厳な父に比べ、この屋敷では温情厚い息子として通しているからだ。
(それにしても、気に食わない)
窓の外を覗き込む。
ゲオルグは苛立っていた。
あの高貴な編入生がなぜかミハエルを気に入っていることも、小屋に通い詰めていることも、なにより、その状況を易々とミハエルが受け入れていることも、何もかもが気に食わない。
アレクサンダーがたびたび教室でミハエルに話しかけている姿は見かけていた。
アレクサンダーは最初こそ級友たちとの会話にミハエルを引っ張り込もうとしていたが、そっけなくされて諦めたものだと思っていた。
二人が廊下で真剣な顔で話すのを見かけたことがある。
正確には見かけたのではなく、後ろをつけて行った。
陰から一部始終を伺うと、最終的にミハエルがアレクサンダーを突き放したので安心した。
ミハエルはいつだって級友たちと馴れ合わない。
ゲオルグがそう仕向けている。
それなのに、何も知らないアレクサンダーが授業終わりにたびたびミハエルに話しかける。
さりげなく彼らの様子を目で追っていたが、見る限りアレクサンダーが一方的にミハエルにかまうばかりで二人が馴れ合っている素振りはなかった。
こちらが詮索していることを知られてはならない。
二人のことは様子見程度にとどめていた。
それがまさか、自宅の敷地内に入り浸っているとは。
いつの間にそこまで距離を縮めていたのだろう。
泳がせていたつもりが、完全に見逃していた。
(迂闊だった)
ゲオルグは苛立ちのあまり、ギリギリと親指の爪を噛んだ。
木戸の扉が開き、灯りが小さく漏れる。
アレクサンダーとミハエルが親しげに小屋から出て来た。
ミハエルがちらりとこちらを見上げるのが目に映る。
ゲオルグは咄嗟にカーテンの陰に身を隠した。
木戸はすぐさま閉められ、二つの影が闇に紛れた。
ミハエルはおそらくわざと角灯を持たないのだ。
こちらに見つからないように。
そう思うとゲオルグは余計に腹立たしくなった。
ゲオルグは目を凝らした。
本宅からぼんやりと漏れる薄明りを頼りに二人の影を目で追う。並んだ影が徐々に裏門まで動いていく。
ミハエルは律儀にもアレクサンダーを見送ってやるつもりらしい。
ゲオルグはグイッと眼鏡を押し上げて、鼻をフンと鳴らした。
コソコソしたところで、全てお見通しだ。
(アイツに嗅ぎつけられたら厄介だ)
アレクサンダーは実に毅然とした人物だ。
こちらのやり方が知れたら、アレクサンダーはその正義感によって真正面から立ち向かってくるだろう。
(とっとと仲を引き裂いておかないと)
効果的にミハエルを打ちのめすには、こちらが不利にならないよう周到にけしかけなければ。
ゲオルグは目を仄暗く光らせて、部屋の奥へと消えていった。