天然で眼鏡な彼は、まだ恋を知らない

プロローグ『恋を知らない誰かへ』

 朝のホームは、いつも同じ景色だった。
 誰もがスマホを見つめていて、誰もが誰にも興味がないふりをしている。

 だけど。

 ふと目が合ったそのとき。
 電車のドアが閉まるほんの数秒前。
 それまで静かだった世界が、なぜか音を立てて動き出したような気がした。

 知らない顔。知らない名前。
 でも、なぜか目が離せなかった。

 それが何だったのかは、まだわからない。
 ただ、その日から――同じ時間の電車に乗ることが、少しだけ待ち遠しくなった。

 ***

 これは、「恋」を知らなかったふたりの物語。
 名前も、気持ちも、まだ知らないまま。
 ほんの少しずつ、すれ違いながら、それでも確かに近づいていく。

 そんな、はじまりの話。
< 1 / 3 >

この作品をシェア

pagetop