黒魔術の使い手ですが何か?! 死に戻り王太子妃は今世ではもふもふ精霊と一緒に楽しく暮らしたい

1.ソードノーズ王国を去る日

「ノエル嬢の癒しで随分と楽になったよ」

「本当ですか?嬉しいですわっ。殿下っ」

ここを発つ前に最後の挨拶にと思いやってきたオーロラだったが、仲睦まじいふたりを見て壁際から一歩を踏み出せなくなった。
その少女のように可憐な女性は、はしたなくも人目もはばからずに車いすに座るウォルターに抱き着き、それを払いのけようともしない彼の顔には笑みが浮かんでいる。
心なしか笑顔にも張りが感じられ、その灰色の髪にも艶が出てきている気がした。

きっと病は本当によくなっているのだ。やはり癒しの魔術はすごい。
オーロラにはない癒しの魔術を使えるノエル。好きになって当たり前だ。

ここはソードノーズ王国の王都に鎮座する王宮の東の宮。王太子が住むこの宮には通常は王太子とその妃しか入宮は許されないはずだ。
だが、神殿より王国の聖女と認められた『ノエル・シェリー・ハートリー』は入宮を許されている。
彼女は今までのどの聖女よりもすばらしい癒しの力を持ち、数々の命を救ったと聞く。
その噂を聞いた国王が王太子ウォルターの病を治癒できないかと彼女を呼んだのだ。

そして国王の願い通り、聖女としてすばらしい能力を持つ彼女の癒しを受けることでウォルターの病は少しずつよくなっていった。

男爵家の庶子として生まれたノエルは貴族令嬢としての教育をほとんど受けておらず王宮でのふるまいには目を見張るものがあったが、その可憐な容姿で人々を虜にし王宮内で次々と味方を作っていった。
鈴が鳴るような声で話し、その空色の瞳で上目遣いにお願いされると誰も断れない。人たらしのその性格もあいまって王宮では今や王太子妃より手厚い扱いを受けるようになっている。
彼女の癒しのおかげで少しずつ病がよくなってきたウォルターもだんだんと彼女の魅力に絆されていった。

「少し立ってみようか」

「え?本当?」

車いすからノエルの手を借りて立ち上がった彼を見て、オーロラの金色の瞳から涙が一筋流れた。
ノエルがウォルターに近すぎるとか、ノエルのマナーがなっていないとかそんなことよりも何よりも元気になられたことがうれしかったのだ。
出会ってからずっと体調がよかったウォルターを見たことがない。
移動はいつも車いす。顔は土気色で灰色の髪にも艶がなく、碧い瞳はくすんでいた。
でも今は心なしか髪にも艶が出ているように見える。
しかも立ち上がれるなんて。
本当によかった。
元気になっているのですね。殿下。

ノエルのピンクの髪が揺れ。立ち上がったウォルターに抱き着くと、ウォルターが声を出して笑った。

殿下が笑い声を?
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