黒魔術の使い手ですが何か?! 死に戻り王太子妃は今世ではもふもふ精霊と一緒に楽しく暮らしたい


デイジーの花かあ。懐かしいな。

前世で王宮を出るときにウォルターからもらったデイジーの花のしおりをもって出たが、そのしおりはずっと医師の勉強をする際にも使い続けていた。
もうぼろぼろになっていたけれど、回帰した今は手元にない。
唯一のウォルターとのつながりみたいな気がして捨てられなかったものだ。
このデイジーの花はどうしようかな。

考えてからオーロラは花瓶に刺した。

「デイジー。綺麗だね」

花瓶に生けたデイジーを眺めていたら、声がして驚いて後ろを振り向いた。

え?
誰もいない?

「ここだよ。もっと下を見て見なよ」

その声に下に視線を落とすと、何やらもふもふのグレーの猫くらいの小さな物体がそこにおり、金色のつぶらなエメラルドの瞳がこちらを見ている。

「クティなの?」

「うん。久しぶり」

「懐かしー、元気だった?」

「まぁね」

そのままオーロラはクティの身体をぎゅっと抱きしめてから腕に抱え込んだ。
そのもふもふの身体に顔をうずめる。

うーん。気持ちいい。

くんくんとにおいを嗅いでクティの香ばしいにおいがして懐かしくてうれしくなった。

「オーロラ。そんなことしちゃ、くすぐったいよ」

「だって久しぶりに会ったのよ。においも久しぶりだもん」

オーロラはクティの身体に顔をうずめてもふもふするのが好きだった。
このにおいをかぐと安心するのだ。

人々が疎ましがろうとオーロラには関係ない。

「今までどうしていたの?」

「オーロラが忘れちゃってるからさ。僕はおとなしくしてたさ」

オーロラの腕からストンと下に降りるとちょっと悲しそうな表情をする。

「ごめん。まさか自分がもう一度人生やり直してるだなんて思うわけないじゃない」

「まぁな。そりゃそうだけど」

クティは精霊である。
それも黒の。
黒の精霊ノクティス。クティというのはオーロラが契約するときにつけた名前だ。
最初に出会った時は真っ黒のもふもふ猫だった。
こっちに来てイヴァンをまだ身ごもっている時だった。そのころ、マーガレットの診療所の奥の部屋を借りていたのだが、怪我してオーロラの部屋の前に倒れていたところをオーロラが助けた。
必死で手当てしたらどうにかこうにかよくなり、そこではじめて黒の精霊ノクティスだということを知った。

『僕は黒の精霊だ。人々から忌まれている存在なんだ。そんな僕を助けてくれてありがとう。じゃぁ僕は行くよ』

そう言って去ろうとしたクティをオーロラは思わず引き止めてしまった。

『待って』

クティは立ち止まる。

『行かないで』

こっちに逃げてきて、子どもを産む前で不安でたまらない自分を唯一癒してくれた存在。それがクティだった。
彼が黒の精霊であろうと、オーロラにはなくてはならない存在だと思った。

『もうすぐ子どもが生まれるの。そばにいて。お願い』

『オーロラ。いいの?』

『うん』

そしたらクティはとっても魅力的な笑顔で答えた。

『わかった。ずっとそばにいる』

そしてオーロラはクティと契約した。
黒の魔術師だったオーロラは黒の精霊との契約のおかげでさらに強大な力を得た。

だからなのかもしれない。
そこからオーロラの病気の治療術は格段に上達していった。

決して人を殺傷したことはない。
すべてを人を助けるためだけに使ってきた。

だが、契約は前世のものだ。今も有効なのだろうか?

「クティ。契約は……」

「契約はオーロラの魂としてるんだよ。だからずっとそばにいる」

そうなのね。

「じゃあこれからも一緒にいてくれるのね」

「うん、もちろんさ」

それにしても最初は真っ黒だったのに、だんだんとグレーになってきて、また一層薄くなっている気がする。

「なんだかちがう猫ちゃんみたになってるわね。クティ」

「え?」

「グレーがまた薄くなったんじゃない?」

「そうかな?黒い方が好き?」

「わたしはどっちもかわいいと思うわ」

「そっか」

クティは嬉しそうに鼻をクンっと鳴らした。

それからその日は久しぶりにクティとの時間を楽しんだオーロラである。
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