【改稿版】記憶を失くした御曹司と偽りの妻
救急車が病院の搬入口に滑り込む。
ドアが開いた瞬間、待機していた医療スタッフの一人がストレッチャーの顔を見て息を呑んだ。

「久遠先生……!?」

先生。

その呼び名が、現実に画びょうみたいに突き刺さる。

白い光の下へ運ばれていく背中を追いながら、私は濡れたまま立ち尽くした。

あの冷たい名医が、どうしてこんな雨の夜に一人で事故に遭っていたのか。
そして、なぜ私に、離れるなと言ったのか。

答えのないまま、ただ一つだけはっきりしている。

今夜、私の世界はたしかに変わった。

久遠怜央――その名を聞いた瞬間から。
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