Marry Me?

Vol.19.味覚と誘惑

「ありがとうございました。また是非、お越しくださいませ」

 それでも、翌日にはけろっと仕事用の顔で仕事しているんだから、人間って不思議だよね。

 うちの店の方針として。レジで商品を手渡すのではなく、出入り口までお見送りする。大手アパレルは客をさばくために、レジで渡すのが一般的だが、……客側としてそのほうが嬉しいだろうと。過去、深崎店長が提案し、その案が採用され、全国に広まったと聞く。……いやいや、あたしがカリスマ店員などと名乗るのはおこがましく、本来なら、深崎店長のようなひとが、カリスマと呼ばれるべきなのだと思う。

「――中村」

 改まった顔で、店長があたしと少し距離をあけ、隣に来ている。「なんですか」

「おれは、おまえの恋を応援出来るくらいには、気持ちの整理がついた。

 ……大樹は嫉妬深いやつだからな。あいつを妬かせん程度になら、相談に乗ってやるから。困ったことがあれば、なんだって言うんだぞ。容赦なく」

 あたしはくすくすと笑った。「……それ。大樹の口癖、です……」
< 116 / 267 >

この作品をシェア

pagetop