腹黒ドクターの独占欲は、傷心MRを離さない
運転席からいつも通りの調子で聞かれて、私は首を振る。
「ううん、ダメだった」
「はは。やっぱり厳しいよな、あの先生。でも清那なら大丈夫だよ。がんばれよな」
「……うん、ありがとう」
明るい声で返しながら、胸の奥がざらつく。
昨日までなら、彼の笑顔も力強い励ましも、私にとっては何より心強いものだった。
でも、それがすべて偽りの姿だったと知った今、吐き気を覚えるほどの不快感が込み上げてくる。
今朝だって、社内で姿を見た瞬間、体が震えて泣き出しそうになるのを堪えた。
私が動揺するなんておかしい。
そう心の中で歯を食いしばり、自分を精一杯保った。
婚約解消も、昨日のうちに突きつけてやりたかった。
けれど、私たちは同じ区を担当していて、こうして営業車を相乗りして得意先に向かうことがある。
気まずくなって仕事がやりにくくなるのは困るし、私が担当先を変えてもらうのも悔しい。
こんな時ですら仕事を優先するなんて、私、ワーカーホリックなんだろうか。
思わず自嘲してしまう。
それに、広士の卑怯な行為も見過ごせない。
鷹宮先生の言葉が気になった。
……『手がある』って、いったい何をするつもりなんだろう。