あと30日で、他人に戻るふたり
「パスタ、ラップしておいて」

振り返りもしないままそう言って玄関で靴を履く彼に、なんて声をかけるか迷ってから絞り出す。

「傘、私の使ってください」


急いでいたはずの彼の動きが、一瞬止まる。

そして玄関の端に掛けているネイビーの傘に視線が移った。

「あの…、すみませんが、花柄です……」

言ってから、激しく後悔した。


ふっと空気が緩む気配がする。
彼が笑っていた。

「ありがとう。借りるね」


さっと傘を手にして、ドアを開けた。

「行ってきます」

「……いってらっしゃい」


ドアが閉まったと同時に、また広い部屋に私ひとりになった。


髪、まだ濡れてたな、とか。
お腹空いたって言ってたのに、とか。

考えようとしたけれど、うまくまとまらない。


キッチンにひとり、ゆっくりとうずくまった。

さっきまで、ここにいたのに。


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