あと30日で、他人に戻るふたり
店を出ると、夜の空気が少しだけひんやりしていた。


来たときよりも、私と彼の間に会話は少なかった。

でも、不思議と気まずくはない。


並んで歩く歩幅は、もう自然と合っている。
合わせようとしなくても、どちらともなく。


マンションまで戻ってきて、やっと帰ってきたな、と思う。
長い散歩だった。


オートロックの前で、足を止めた大地さんがふと口を開いた。

「……さっきの話。仕事の」

私もちょうどそのことを考えていたので、思わず「はい」と返事をしてしまう。


「別に、無理に変えなくてもいいと思う」

それだけ言って、一度言葉を切る。

「でも、変えたいなら変えればいいよ。美月がどうしたいかの話だから」


相変わらず、投げっぱなしみたいな言い方。

その言い方こそが、この人らしいと感じてしまって笑いがこぼれる。

「……はい」

それ以上の言葉は、出てこなかった。


部屋に入ると、いつもと同じ空気が広がる。

ソファも、テーブルも、見慣れたままなのに。

不思議だけど、今日のことが少しだけ残っている気がした。



着替えを済ませて、なんとなくソファに腰を下ろす。


隣では、大地さんがいつもみたいに寝転がってスマホを手に取っている。
通常運転は彼だけだ。


そんな彼の発した言葉だけで、私の心は気づかないうちに動かされている。


その事実が、出かける前とは少しだけ違う気がした。



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