小学校の帰り道。
小学校の帰り道には決まった匂いがあった。
少し湿った土の匂いと、遠くの夕焼けの匂い。 それに隣を歩く美咲のシャンプーの香り。
「ねえ、今日さ」
美咲がランドセルを揺らしながら言う。
「寄り道しよ」
「また?」
私は少しだけ困った顔をする。
「だって、早く帰らないと怒られるよ」
「ちょっとだけ」
美咲は笑う
「ね、お願い」
その笑い方が、ずるかった。
結局、私は頷いてしまう。
「……ほんとにちょっとだけね」
「やった!」
美咲は嬉しそうに駆け出した。
私たちが向かったのは、いつもの場所。
学校から少し外れた、使われていない古い公園。
ブランコは錆びていて、滑り台は少し歪んでいる。 誰も来ない場所
だからこそ、私たちの“秘密基地”だった。
「ねえ、約束しよ」
ブランコに座りながら、美咲が言う。
「なに」
「ずっと友達でいようね」
風が揺れる。
ブランコが、きい、と鳴る。
「当たり前じゃん」
私は笑って答える。
「そんなの約束するまでもないのに」
でも、美咲は首を振る。
「ちゃんと言葉にしないとダメ」
その言い方が、少しだけ真剣で。
「……分かった」
私は手を差し出す。
「約束」
美咲はその手を握る。
「約束」
それが、全部の始まりだった。
次の日。
美咲は学校に来なかった。
「風邪かな」
最初、みんなそう言っていた。
先生も「そのうち来るよ」と笑っていた。
でも。
三日経っても。
一週間経っても。
来なかった。
「……変だよね」
帰り道、私は一人で歩く。隣に誰もいない
いつもなら、ここで美咲がくだらない話をしてくるのに。
静かすぎる。
気づけば足はあの公園に向かっていた。
「……いるわけないか」
呟きながら、中に入る。
でも。
ブランコが、揺れていた。
風はない。
なのに、ゆっくりと。
きい、きい、と音を立てて。
「……美咲?」
思わず名前を呼ぶ。
返事はない。でもそのとき。
「来ると思った」
後ろから声がした。
美咲が、立っていた。
「……え」
思考が止まる。
「なんで……学校……」
美咲は少しだけ困ったように笑う。
「行けなくなった」
「なんで?」
「分かんない」
軽く言う。
でもその目は少しだけ暗い。
「でもね」
美咲は近づいてくる。
「ここには来れるの」
違和感があった。
服が昨日と同じ。 髪型も靴も同じ。
まるで時間が止まっているみたいに。
「……帰ろうよ」
私は言う。
「みんな心配してるよ」
美咲は首を振る。
「帰れない」
「なんで」
「分かんない」
同じ答え。
でもその声は少し震えていた。
「ねえ」
美咲が私の手を掴む。
「約束、覚えてる?」
「……うん」
「ずっと友達」
「うん」
美咲は少しだけ安心したように笑う。
「よかった」
その日から。
私は毎日、公園に通うようになった。
学校が終わるとまっすぐ帰らずに。
あの場所へ
そこには必ず美咲がいた。
「今日さ、先生また怒ってた」
「えー、やだね」
「美咲がいないから、静かすぎるよ」
「そっか」
普通に話す。
普通に笑う。
でも。
触れると、少し冷たい。
影、ちょっと薄い。
そして。
「帰りなよ」
ときどき美咲はそう言う。
「遅くなるよ」
「……美咲は?」
「私はいいの」
その“いいの”が、ずっと引っかかってた。
ある日私は先生に呼ばれた。
「最近、帰りが遅いって聞いたよ」
「……」
「どこに行ってるの?」
少し迷って。
答える。
「公園です」
「誰と?」
「美咲と」
先生の表情が、変わった。
「……その名前、どこで聞いたの」
「え?」
「同じクラスの……」
言いかけて今気づく。
クラスの席。美咲の席なかった
最初から。
「……そんな子、いないよ」
先生は静かに言った。
頭が真っ白になる。
「嘘だよ……」
「ごめんね」
「でも、本当なの」
その日の帰り。
私は走った。
公園へ。
息を切らして。
「美咲!!」
呼ぶ。
いた。
いつもの場所に。
ブランコに座って。
「……どうしたの」
「美咲」
息がうまくできない。
「……私たち、いつから友達?」
美咲は少し考える。
「ずっと前からだよ」
「いつ」
「……覚えてない」
その答えで、全部が崩れる。
「先生が……」
声が震える。
「いないって……」
美咲は、何も言わない
ただ、少しだけ寂しそうに笑う
「そっか」
「やっと気づいちゃったんだ」
「……なに、それ」
「私ね」
ブランコが揺れる。
きい、と音が鳴る
「もう帰れないの」
その言葉の意味がやっと分かった
「……死んだの?」
直接聞いちゃった。
美咲は少しだけ驚いた顔をして。
「うん」
あっさりと頷いた
世界の音が遠くなる。
「……いつ」
「ずっと前」
「じゃあなんで、!」
「分かんない」
でも…と続ける。
「ここで待ってたら」
「誰か来る気がした」
「……私?」
美咲は笑った。
「うん」
涙が出る。
止まらない。
「……じゃあ」
「もう、もういなくなっちゃうの?」
美咲は少しだけ考えて。
「たぶん」
「やだ」
即座に言う。
「やだよ」
「だって約束したじゃん」
「ずっと友達って」
美咲の目が揺れた。
「……うん」
「だから、守ったよ」
「え」
「ずっと、ここで待ってた」
「会えるまで」
言葉が出ない。
そんな約束の守り方あるわけないのに。
「ねえ」
美咲が立ち上がる。
「もういいんだ」
「会えたから」
その体が少しずつ透けていく。
「……待って」
手を伸ばしても掴めない。すり抜ける。
「行かないで」
「やだ」
美咲は困ったように笑った。
「泣かないでよ」
「約束、まだ終わってないよ」
「え」
「ずっと友達」
「でしょ」
その言葉だけがはっきりと残る。
完全に消える。音もなく静寂。
私は、その場に座り込んだ。
何もできないまま。
ただただ、泣くことしかできなかった。
次の日から私は公園に行かなくなった。
ブランコはもう揺れていなかった。
でも。
帰り道でときどき。隣に誰かがいる気がする。
話しかけてくるような。
笑っているような。
振り向いても誰もいない。
それでも。私は小さく言う。
「ただいま」
風が吹く。
少しだけ。
懐かしい匂いがした。
さぁ。長い長い走馬灯お疲れ様でした。
え?これが走馬灯だって知らなかったって?だって私。言ってませんもの。
____今この人生が本当の長い長い走馬灯なのかもしれませんね?
少し湿った土の匂いと、遠くの夕焼けの匂い。 それに隣を歩く美咲のシャンプーの香り。
「ねえ、今日さ」
美咲がランドセルを揺らしながら言う。
「寄り道しよ」
「また?」
私は少しだけ困った顔をする。
「だって、早く帰らないと怒られるよ」
「ちょっとだけ」
美咲は笑う
「ね、お願い」
その笑い方が、ずるかった。
結局、私は頷いてしまう。
「……ほんとにちょっとだけね」
「やった!」
美咲は嬉しそうに駆け出した。
私たちが向かったのは、いつもの場所。
学校から少し外れた、使われていない古い公園。
ブランコは錆びていて、滑り台は少し歪んでいる。 誰も来ない場所
だからこそ、私たちの“秘密基地”だった。
「ねえ、約束しよ」
ブランコに座りながら、美咲が言う。
「なに」
「ずっと友達でいようね」
風が揺れる。
ブランコが、きい、と鳴る。
「当たり前じゃん」
私は笑って答える。
「そんなの約束するまでもないのに」
でも、美咲は首を振る。
「ちゃんと言葉にしないとダメ」
その言い方が、少しだけ真剣で。
「……分かった」
私は手を差し出す。
「約束」
美咲はその手を握る。
「約束」
それが、全部の始まりだった。
次の日。
美咲は学校に来なかった。
「風邪かな」
最初、みんなそう言っていた。
先生も「そのうち来るよ」と笑っていた。
でも。
三日経っても。
一週間経っても。
来なかった。
「……変だよね」
帰り道、私は一人で歩く。隣に誰もいない
いつもなら、ここで美咲がくだらない話をしてくるのに。
静かすぎる。
気づけば足はあの公園に向かっていた。
「……いるわけないか」
呟きながら、中に入る。
でも。
ブランコが、揺れていた。
風はない。
なのに、ゆっくりと。
きい、きい、と音を立てて。
「……美咲?」
思わず名前を呼ぶ。
返事はない。でもそのとき。
「来ると思った」
後ろから声がした。
美咲が、立っていた。
「……え」
思考が止まる。
「なんで……学校……」
美咲は少しだけ困ったように笑う。
「行けなくなった」
「なんで?」
「分かんない」
軽く言う。
でもその目は少しだけ暗い。
「でもね」
美咲は近づいてくる。
「ここには来れるの」
違和感があった。
服が昨日と同じ。 髪型も靴も同じ。
まるで時間が止まっているみたいに。
「……帰ろうよ」
私は言う。
「みんな心配してるよ」
美咲は首を振る。
「帰れない」
「なんで」
「分かんない」
同じ答え。
でもその声は少し震えていた。
「ねえ」
美咲が私の手を掴む。
「約束、覚えてる?」
「……うん」
「ずっと友達」
「うん」
美咲は少しだけ安心したように笑う。
「よかった」
その日から。
私は毎日、公園に通うようになった。
学校が終わるとまっすぐ帰らずに。
あの場所へ
そこには必ず美咲がいた。
「今日さ、先生また怒ってた」
「えー、やだね」
「美咲がいないから、静かすぎるよ」
「そっか」
普通に話す。
普通に笑う。
でも。
触れると、少し冷たい。
影、ちょっと薄い。
そして。
「帰りなよ」
ときどき美咲はそう言う。
「遅くなるよ」
「……美咲は?」
「私はいいの」
その“いいの”が、ずっと引っかかってた。
ある日私は先生に呼ばれた。
「最近、帰りが遅いって聞いたよ」
「……」
「どこに行ってるの?」
少し迷って。
答える。
「公園です」
「誰と?」
「美咲と」
先生の表情が、変わった。
「……その名前、どこで聞いたの」
「え?」
「同じクラスの……」
言いかけて今気づく。
クラスの席。美咲の席なかった
最初から。
「……そんな子、いないよ」
先生は静かに言った。
頭が真っ白になる。
「嘘だよ……」
「ごめんね」
「でも、本当なの」
その日の帰り。
私は走った。
公園へ。
息を切らして。
「美咲!!」
呼ぶ。
いた。
いつもの場所に。
ブランコに座って。
「……どうしたの」
「美咲」
息がうまくできない。
「……私たち、いつから友達?」
美咲は少し考える。
「ずっと前からだよ」
「いつ」
「……覚えてない」
その答えで、全部が崩れる。
「先生が……」
声が震える。
「いないって……」
美咲は、何も言わない
ただ、少しだけ寂しそうに笑う
「そっか」
「やっと気づいちゃったんだ」
「……なに、それ」
「私ね」
ブランコが揺れる。
きい、と音が鳴る
「もう帰れないの」
その言葉の意味がやっと分かった
「……死んだの?」
直接聞いちゃった。
美咲は少しだけ驚いた顔をして。
「うん」
あっさりと頷いた
世界の音が遠くなる。
「……いつ」
「ずっと前」
「じゃあなんで、!」
「分かんない」
でも…と続ける。
「ここで待ってたら」
「誰か来る気がした」
「……私?」
美咲は笑った。
「うん」
涙が出る。
止まらない。
「……じゃあ」
「もう、もういなくなっちゃうの?」
美咲は少しだけ考えて。
「たぶん」
「やだ」
即座に言う。
「やだよ」
「だって約束したじゃん」
「ずっと友達って」
美咲の目が揺れた。
「……うん」
「だから、守ったよ」
「え」
「ずっと、ここで待ってた」
「会えるまで」
言葉が出ない。
そんな約束の守り方あるわけないのに。
「ねえ」
美咲が立ち上がる。
「もういいんだ」
「会えたから」
その体が少しずつ透けていく。
「……待って」
手を伸ばしても掴めない。すり抜ける。
「行かないで」
「やだ」
美咲は困ったように笑った。
「泣かないでよ」
「約束、まだ終わってないよ」
「え」
「ずっと友達」
「でしょ」
その言葉だけがはっきりと残る。
完全に消える。音もなく静寂。
私は、その場に座り込んだ。
何もできないまま。
ただただ、泣くことしかできなかった。
次の日から私は公園に行かなくなった。
ブランコはもう揺れていなかった。
でも。
帰り道でときどき。隣に誰かがいる気がする。
話しかけてくるような。
笑っているような。
振り向いても誰もいない。
それでも。私は小さく言う。
「ただいま」
風が吹く。
少しだけ。
懐かしい匂いがした。
さぁ。長い長い走馬灯お疲れ様でした。
え?これが走馬灯だって知らなかったって?だって私。言ってませんもの。
____今この人生が本当の長い長い走馬灯なのかもしれませんね?