死神殺害欲求

始動

今の私を見たらどう思うだろう、と、少女はやっと見つけた自我の中で思う。

 自然に髪を伝ってこぼれ落ちたピンに、なんの感情もなく手を伸ばす。どこにでも売っていそうな大きな紫のハートに、血管のように広がる金の線。そのパッと見た時の気味の悪さが、皮肉にも人間というより化け物に寄る少女を正しく想像させた。

 拾って付け直した後も、そのピンは頼りなくカタカタと揺れる。ピンをよく見ると針金の部分が潰れたような形になっており、すぐに落ちてしまうのも納得がいった。だがそうなった経緯に、少女は未だ理解が追いついていない。

また何度目かもわからない過去を辿ろうと、視界が消えていく。見ているはずなのに、聞こえているはずなのに、ただ茫然と何かを拒絶する。この感覚は少女にとってすでに慣れた行為であり、大した抵抗ももうない。

 己の傷口を眺めようとその視覚すら瞼で遮ろうとした時、微かに耳を震わせる雑音が響いた。そこで、周りがひどく暗いことに気がつく。もちろん、星が見えるような美しい風景はそこにない。
 ……雨が降っていた。本来なら夏場に降る雨ほど嬉しいことはないかもしれないが、その一切を感じることなく、少女は今まで信じすらしていない迷信に手を伸ばしかけた。

神様は、いるのかもしれない。

そんな妄言をなぞるのは、現実しか見ていられなかった少女にとっていつぶりだろう。けれどこんなに自分にぴったりな天気を、少女は偶然なんて雑な言葉で整理できない。
 
__何かに縋っていたい。そんな無差別に取り憑く最低の考えになったのも、少女にとって初めて。けれどその感情を持て余すことなく、ヒトとして手を結んだ。
 お願いだから、どうか。その気持ちに名前をつけたとしても、絶対に信仰心ではない。しかし、そんなものはどうでもいいのだろう。ただ、少女は乞い願う。

どうか、「幸せ」になれますように。

結果を、最後を、少女は求めた。もうこれ以上はないと断言してしまえるほど強く、そして、ひどく哀れに。
 雨に濡れた髪がその動きで揺れ、頰に張り付く。まるで悪霊の手のようにスルスルと少女の頰をなぞった。
 
 化け物は、今日、化け物の場所へ帰る。

 ***

ここには、人から拒絶された者が居場所を求めてやってくる。大半の人類はそれを知らずに死んでいくが、不幸にも認知してしまった一部からはこう言われているらしい。

___『化け物の死場所』

 それは皮肉であり、嫌悪。自分より優れた者を人外だと避けるような。もしくは、自分より愚かで価値のないものを人として認めないような。
ただ、彼らは、価値を認められない者たちは、それでいいと言う。少女もそれでいい。恵まれていない人たちを見下すでもなく、ただ淡々と。

どうせ、理解できない。

歪んだ利害の一致が、この場所を築く。
 改めて、ようこそ。人ならざると認められたモノ、その死場所に。もしくは___世界から切り離された、化け物の安らぐ我が家へ。
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