好きになった人は、みんなのアイドルで

14話 気付かないふりをした

講義が始まる前の教室。
少しだけ騒がしい空気の中で栞が声をかけてくる。
「紬おはよー」

「おはよ、栞。……ねえ、私なんか変かもしれない」
「え?どした?体調悪い?」
「いや、そうじゃなくてね……」
「うん?」
「……昨日、ゆうたろうくんがバイト先来てさ、」
「うん」
「つむぎちゃんおつかれって言われた」
「それの何が変なの?」
「緊張して、全然上手く喋れなかった……」
「あはは、仕方ないじゃん、推しなんだから」
「その推しって言うのやめてよ」
「だって推しじゃん、それとも好き?」

好き?って聞かれて、一瞬頭が真っ白になる。
(つむぎちゃん)
ゆうたろうくんの声を思い出す。
つむぎちゃん、おつかれって言ってくれた……

「赤くなってるじゃん、紬、ほんとに悠太郎くんのこと気になってないの?」
栞に顔を覗き込まれて何も言えない。
「好き、とかじゃない、よ……」
「紬ってほんとに顔に出るよね」
「えっ」
「紬、悠太郎くんのこと見すぎ」
(え、そんなことない、はず)
何も言えないでいると
「ちょっと悠太郎くんいいなーと思ってたんだよなー、あ、ちょっとだけね、やっぱかっこいいじゃん、有名人だし」と栞が笑う。
「や、えっと、ちが」
「いいじゃん、悠太郎くん。学食で喋ってるとき、紬嬉しそうだったよ」
「……でも、好き、とかじゃないよ」
否定したつもりなのに声が小さくなる。
「分かった分かった、ごめん」

教授が入ってくる。 「授業始めるぞー」
「また後で聞くから」 栞が小さく呟いて前を向く。

え、ゆうたろうくんのこと、好き?
そんなの、ない、……はずなのに。

(つむぎちゃん、おつかれ)
あの声が頭から離れない。

また会いたい、なんて思ってしまった自分に、
気付かないふりをした。
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