【完結】王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

35.揺らぐ決断①

宰相は数々の証拠と証言などについて話し始めた。

使われた武器に我が家に代々伝わる紋章入りの剣があったこと、死んだ襲撃者が持っていた手紙は実家の紋章入りの紙だったことなど、実際に証拠を示された。

それにあの場所に私は土地勘があることや実家の領地の税収の一部が私の帰国後になぜか消えていることも指摘してくる。

 ふぅ…、馬鹿馬鹿しいわ。


「どれも一つでは王妃様が首謀者だとは断定出来ません。ですがすべては王妃様に繋がっていることばかりです」
「だからといってこれで首謀者とするのは根拠が弱いわ」

冷静にそう言うこと出来たのは、あまりにも証拠がこじつけだからだ。
剣や紙は確かに我が家のものだったが盗むことは誰にでもできる。
それに土地勘があるのは私だけではないし、税収だって誰かが横領していた可能性のほうが高い。


「確かに王妃様の言う通りです。ですが襲撃事件での態度はどうでしょうか?側妃様が外に出るのを止めたそうですね」
「ええ、私達が出たら味方の邪魔になると思ったから」
「味方とは襲撃者のことでしょうか?王妃様」
「違うわ、もちろん我が国の騎士達のことよ」

探るような言い方をする宰相の言葉をきっぱりと否定する。

私は側妃が事実しか言っていないのを知っていた。
聞き取り調査で彼女は『恐怖から馬車の外に出ようとしたのを冷静な王妃様は止めてくれました。…感謝しています』と調査官に告げていたのを近くで聞いていたから。

あれをどう聞いたら襲撃者の邪魔をさせないように側妃を外に出さなかったと思うのか…。
彼女だってそんな誤解させるような言い方はしていなかった。


宰相は私が否定しても気にすること話を続ける。

「それに馬車の扉を開けた者は言っておりました。側妃様は怯えていたが、王妃様は驚くほど落ち着いていたと。それは事前に襲撃を知っていたからでしょうか?王妃様」
「私はなにも知らなかったわ」


宰相は確かにすべて事実のみを告げている。
でもその事実を都合のいいように解釈していた。

まるで物語の穴の空いた部分に丁度いい事実を当てはめ、自分が感じたまま語っている。


――首謀者を見つけたのではなく、真実を作ったのだ。


被害を最小限に留めることが出来き、みなが納得できる真実を…。

宰相の表情には後ろめたさは見えなかった。
きっと彼も国王と同じでこの真実を信じている。

――いいえ、信じたいから信じたのだろう。


隣国との約束の期限が迫るなか、国を貴族を民をどう守ればいいのかとみな焦っていた。
確かな証拠が出てこないなか冷静さを失っていたのかもしれない。

そこに証拠、証言、状況が完璧に揃った人物が現れた。
そのうえ三年間も人質として苦渋を味わったので復讐するという完璧な動機が私にはあった。

きっと誰かが何気なく『怪しいのでは…』と言った言葉がきっかけとなったのだろう。

私が首謀者になるまでそんなに時間は掛からなかったはずだ。

一人だとそんなはずはないだろうと思えても、集団になると多少無理があっても受け入れてしまうのが集団心理の怖さ。

他の人達もそう思っているから自分は間違っていないと思い込む。自信がないからこそ、普通だからこそ、……同調しやすい。

追い詰められていたら尚更そうなる。

――特別なことではない。





三年前と同じで助けてくれる者はいなくても私はもう三年前とは違う。

――屈しない。

言うべきことは言わせてもらう。


「よく出来た真実ね。でも私がランダ殿下の前で一つ一つ丁寧に否定していったらどうなるかしら…」

脅したつもりはない。
ただすんなりと首謀者に仕立てられるつもりはないと伝えたかった。

「この条件に当てはまる者はもう一人おります。もし王妃様ではないとしたら弟君ということでしょうか…」
「っ、……何を言ってい…るの…」

淡々とそう告げてくる宰相。
彼も私を脅しているつもりはない。ただ調査の過程で浮かんできた事実を伝えているだけ。


――手足が氷のように冷たくなっていく。










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