【完結】王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

39.決意〜レザ視点〜

当初の予定では視察団の仕事が片付いたら、一人でこの国に残って見極めるつもりだった。
ジュンリヤが何を望み、どんな未来を選択するかを。

俺の都合や一方的な気持ちではなく、彼女の心に合わせて動くつもりだった。

ジュンリヤの為ならばいつまでも待てるし、永遠にその日が来なくてもそれはそれで構わない。

彼女の願いを叶える為ならば、差し出したこの手が永遠に宙を彷徨っても耐えられる。



さすがに王族としての仕事を放棄し続けていれば父あたりが黙ってはいない。
『背負った責任を放棄するな。愛する事を言い訳に使うような奴が愛してもらえると思うな!』と容赦ない言葉を浴びせるてくるだろう。

もちろん俺もそれには同意する、愛することは何かを手放すことではない。


だから先手は打ってある。
国王である伯父にも父にも国を出立する前に色々な可能性について伝えてあるし、この国に残る場合には間諜として働く手筈は整えている。

――抜かりはない。



俺達王族は唯一無二の存在を見つけたらより貪欲になる。

振り向かせたい、隣りにいて欲しい、微笑んで欲しい、笑顔が見たい、振り回して欲しい、自分のそばで泣いて欲しい、そして愛して欲しいと。
また愛されたら愛されたで新たな欲が生まれて終わりはない。

 まるで底なし沼だな…。

それに王族としての責任や財と地位も捨てない。
前者は背負った責任から、後者は愛する人と紡ぐ未来にそれなりに役に立つからだ。


――何一つ妥協するつもりはない。


そのためにはどうすればいいか。
答えは簡単だ、その欲に合わせて己を成長させればいいだけ。

――強くなればいい。

すべてを抱えられる強さを持てばいいだけのことだ。
他の方法?そんなもの考える必要はない。

みんな当たり前にそうしてきた。
父だって伯父だってランダだって世の中では出来る部類に入る男達が、それこそ滑稽なくらい必死になって努力し続けている。
もちろん伴侶にはそんな姿は微塵も見せやしない。

昔は呆れていたが今はその気持ちが痛いほど分かってしまう自分がいる。

 




今回、想定していたにも関わらずジュンリヤを首謀者に仕立てる可能性はないだろうと見誤ったのは、それはアンレイが絶対に許さないと考えたからだ。

アイツは間違えてばかりで彼女に何も伝わってはいないが、愛する気持ちは一応は本物だった。

 自分勝手で独善的なもので理解は出来ない代物だがな…。


だからこじつけるにしろ、それはジュンリヤではないと思っていた。

だが謎の思考で愛する人を首謀者だと思い込み、その前提でなぜか救おうとしている。


――全く理解できない。

たぶんすべてを手放せなかったのだろう。
国王としての体面だけを必死に保とうとし、愛する人を守ろうとする自分でも居続けようとしている。

その力が無いにも関わらず、すべてを抱えようとするから歪んでしまった。

己の弱さを受け入れ、それを晒す勇気があれば結果は違ったかもしれない。

まあ、見せられない気持ちは分かる。素は見せたいが弱さだけは隠したいと男なら誰しも願い、だからこそ強くなろうとするのだが、アイツはその努力を怠った。

たぶん重圧に潰されそうになる自分を守る為に、適当な理由をつけ己の行動を正当化することに慣れてしまったのだろう。


そういう人生を否定はしない。
だがその結果は何があろうとすべては自業自得だ。






今回のことは予定通りではないが今こそ彼女に手を差し出す時だ。

「明日、この国は首謀者としてジュンリヤを差し出してくる。だから今夜動く、そしてジュンリヤの気持ちを確かめる」

離宮に忍び込む手筈はもう整っている。
ランダも俺がこう言うと思っていたのだろう、何も言わずにその視線で先を促してくる。

「彼女が俺の望む言葉をくれたら最高だが、…そうじゃなくても助けるつもりだ。視察団の仕事の邪魔はしない」
「当然だ、仕事とお前の個人的な事情は関係ない。俺達王族はどちらも手に入れる、そうだろう?レザム」
「ああ、そのつもりだ」


俺達王族は愛する人が望まないことは出来ない。

もしやろうとすれば自分の心と体が激しく拒絶するらしい。
それは激しい頭痛だったり不眠だったり幻覚だったり、様々な形で表れると聞いている。

イカれていると思うだろうが、これは事実だ。

今回は多少強引な手も考えてはいる。だが彼女がそれを完全に拒否したならば、俺はやはり彼女の気持ちを最後には優先してしまうだろう。

ジュンリヤの為にその心を踏みにじる?
はっは…は、…そんなこと出来やしない。たとえそれが最善だとしても。

だからランダに『つもり(・・・)』と告げたのだ。
最悪、彼女の望みが死だとしたら、…俺も一緒に逝く。

 いいや最悪ではない、永遠に一緒にいられるのだから…。

そう思ってしまう俺は完全に常軌を逸している。
自覚しているが、こればかりはどうしようもない。もう骨の髄まで想いが刻み込まれてしまっているのだから。

――まともな人間には到底理解されない。

だから隠し通す、…特に愛する人には。


ランダも今の俺の気持ちを十分すぎるくらい分かっているはずだ。だから死ぬなよと陳腐な言葉ではなく、どちらも手に入れろと告げてきた。



「もし何かあったら後のことは頼む」

万が一にも何かあった時にはランダがすべて上手くやってくれる事になっている。

「尻拭いは御免だ、レザム」

突き放すようなを言葉を返してくるランダ。
それはどっかで聞いたことがある台詞だった。

確か伴侶を手に入れる過程でいろいろあったランダに俺が激励を込めて贈った言葉と全く同じ。

 …ったく、使い回しかよ。
 だが最高だっ。


「他に言うことはないのか、くっくく」
「この言葉以上に背中を押してくれるものは思いつかない。それに担げる験は担いでおいたほうがいい、そうだろう?」

俺とランダはそれ以上言葉は交わさなかった。
もう十分言いたいことは伝えたし、言葉にしなかったことも伝わっているのがお互いに分かっていたから。


その後すぐに俺はこの変わり果てた部屋を静かに出ていき、暗闇に身を隠しながら急ぎ離宮へと向かった。



――早く会いたい。
 

< 39 / 61 >

この作品をシェア

pagetop