太陽と月
01 最悪な出会い
春が来るたび、世界は色づいていく。
花は咲き、人は笑い、恋が生まれる。
——けれど私には、それが嫌いだ。
新学期初日。
私九条柚葉は、人混みを避けるように俯いて歩きながら、いつからか自分の顔の一部になったマスクを引き上げる。
昔から綺麗な顔と人に言われていた私。
けど私はそうは思わなかった、あんな奴に似たこの顔が
私は大嫌いだった━━━━━━━━━。
だから人から『綺麗』と言われるたび、吐き気がした。
群がる視線も、向けられる好意も、全部空っぽに思えた。
だから私は今日も、マスクで顔を隠して歩く。
クラスを確認して教室に入ると、また視線が集まる。
「やっば九条さんと同じクラス?勝ち組じゃんけ」
「九条さんってやっぱ綺麗…」
そんなひそひそ声に吐き気がした。
早く席につこうと無視して席に着く。
「君隣?よろしく!俺 東雲朝輝!」
窓際の席について読みかけだった本を読んでいる時、横から声をかけられる。
だけど私はそいつを睨んで本に目を移す。
――話しかけるな。
そう言っているのと同じ空気を、わざと濃く纏う。
普通なら、ここで引く。
空気が読める人間ならなおさら。
けれど
「何読んでるの?」
こいつは引き下がらず先程と変わらない嘘くさい笑顔で聞いてくる。
私はゆっくりページをめくるふりをして、無視した。
聞こえていないわけじゃない。
聞こえないことにしているだけ。
それでも隣の男――東雲朝輝は、まるで意に介していないみたいに机に頬杖をついた。
「ミステリー?恋愛小説?……あ、もしかして難しいやつ?」
うるさい。
初対面でどうしてこんなに距離が近いの。
苛立ちで眉が寄る。
「……黙って」
小さく、刺すように言い捨てる。
普通なら今度こそ黙る。
……はずだった。
「お、喋った」
嬉しそうに笑った。
意味がわからない。
「……気持ち悪い」
「それ初対面に言う?」
軽口混じりに返してくる声にまたイラッとする
すると、不意に前の席の女子がくすりと笑った。
「東雲くん、九条さん困ってるって」
「え、そう?ごめん、迷惑だった?」
ようやく黙るかと思った、その時。
「だったらそんな顔せずに言えばよかったのに」
その一言に、胸の奥がぴくりと揺れた。
——そんな顔?
私は反射的に顔を上げる。
東雲朝輝は、からかうでもなく、本気で不思議そうに首を傾げていた。
「……どういう意味」
低く返すと、彼は少しだけ目を丸くして、それから笑う。
「いや、“近寄るな”って顔してるから」
図星だった。
思わず言葉に詰まる。
今までそんなこと、面と向かって言ってきた人はいなかった。
みんな勝手に怯えるか、媚びるか、そのどちらかだったから。
「……わかってるなら放っておいて」
吐き捨てるように言う。
けれど東雲はあっさり言った。
「やだ」
花は咲き、人は笑い、恋が生まれる。
——けれど私には、それが嫌いだ。
新学期初日。
私九条柚葉は、人混みを避けるように俯いて歩きながら、いつからか自分の顔の一部になったマスクを引き上げる。
昔から綺麗な顔と人に言われていた私。
けど私はそうは思わなかった、あんな奴に似たこの顔が
私は大嫌いだった━━━━━━━━━。
だから人から『綺麗』と言われるたび、吐き気がした。
群がる視線も、向けられる好意も、全部空っぽに思えた。
だから私は今日も、マスクで顔を隠して歩く。
クラスを確認して教室に入ると、また視線が集まる。
「やっば九条さんと同じクラス?勝ち組じゃんけ」
「九条さんってやっぱ綺麗…」
そんなひそひそ声に吐き気がした。
早く席につこうと無視して席に着く。
「君隣?よろしく!俺 東雲朝輝!」
窓際の席について読みかけだった本を読んでいる時、横から声をかけられる。
だけど私はそいつを睨んで本に目を移す。
――話しかけるな。
そう言っているのと同じ空気を、わざと濃く纏う。
普通なら、ここで引く。
空気が読める人間ならなおさら。
けれど
「何読んでるの?」
こいつは引き下がらず先程と変わらない嘘くさい笑顔で聞いてくる。
私はゆっくりページをめくるふりをして、無視した。
聞こえていないわけじゃない。
聞こえないことにしているだけ。
それでも隣の男――東雲朝輝は、まるで意に介していないみたいに机に頬杖をついた。
「ミステリー?恋愛小説?……あ、もしかして難しいやつ?」
うるさい。
初対面でどうしてこんなに距離が近いの。
苛立ちで眉が寄る。
「……黙って」
小さく、刺すように言い捨てる。
普通なら今度こそ黙る。
……はずだった。
「お、喋った」
嬉しそうに笑った。
意味がわからない。
「……気持ち悪い」
「それ初対面に言う?」
軽口混じりに返してくる声にまたイラッとする
すると、不意に前の席の女子がくすりと笑った。
「東雲くん、九条さん困ってるって」
「え、そう?ごめん、迷惑だった?」
ようやく黙るかと思った、その時。
「だったらそんな顔せずに言えばよかったのに」
その一言に、胸の奥がぴくりと揺れた。
——そんな顔?
私は反射的に顔を上げる。
東雲朝輝は、からかうでもなく、本気で不思議そうに首を傾げていた。
「……どういう意味」
低く返すと、彼は少しだけ目を丸くして、それから笑う。
「いや、“近寄るな”って顔してるから」
図星だった。
思わず言葉に詰まる。
今までそんなこと、面と向かって言ってきた人はいなかった。
みんな勝手に怯えるか、媚びるか、そのどちらかだったから。
「……わかってるなら放っておいて」
吐き捨てるように言う。
けれど東雲はあっさり言った。
「やだ」

