野いちご源氏物語 五四 夢浮橋(ゆめのうきはし)
小野(おの)の家では、浮舟(うきふね)の君(きみ)が庭の蛍(ほたる)をぼんやりと眺(なが)めていた。
そこへにぎやかな声が聞こえて、たくさんの灯(あか)りがちらちらと近づいてきた。
尼君(あまぎみ)や女房(にょうぼう)たちも外を気になさる。
「どなたのお行列かしら。お供(とも)がずいぶん多いようだけれど」
「昼間、僧都(そうづ)様のところに食材を差し上げたら、『薫(かおる)の君(きみ)が急にお越しになってお食事をどうしようか困っていた。ちょうどよい』とおっしゃったそうですよ」
「では薫の君がお帰りになるのでしょう。薫の君といえば、たしか女(おんな)二(に)の宮(みや)様の婿君(むこぎみ)でいらっしゃいましたかね」
都から離れた山里(やまざと)の、しかも尼姿(あますがた)の女房たちだもの、会話が田舎(いなか)くさいのよね。

浮舟の君ははっとする。
<本当に薫の君だ>
お行列の声のなかに、薫の君が宇治(うじ)へお越しになるときに聞こえた家来(けらい)の声が混ざっている。
<いつまでも昔のことを覚えていてはいけない。尼(あま)になったのだから>
お経(きょう)を読むことに集中して、いつも以上に女房たちのおしゃべりから遠ざかる。
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