春と花
雪が頬を上げた朝
根の下で何かが呼吸を始める
まだ名もない震えが凍てついた土の隙間を縫って
遠い日差しの方角へ伸びていく

梅は率先して扉を開く
白いまるで恥じらいのような白で冬の名残りに挨拶をする
その香りに誘われて
山茶花が燭台を持って現れ
菜の花が野に金色の海を広げる
木蓮は夜のうちに薄紅の盃を並べ通り過ぎる風に
新しい言葉がありますよとささやく

桜が笑うとき世界は音符を一つ落とす
ほころびかけた蕾は春という楽器の第一の鍵盤だ
雨が降れば桜吹雪が舞い散りゆく一片ごとに
誰かが手紙を書いたように思う
薄桃色の便箋には何と書かれているのだろう
愛? 別れ? それとも次の季節への約束?

花たちの言葉は静かだ
けれど、川面を埋める薄紅を眺めながら
確かに再会という音を聞いた
去年と同じ枝に咲き
同じ風を受け同じ光に溶けるのに
どれひとつ同じ花はない
すべてが唯一の瞬間に生きている

そして彼岸花が赤く火を灯せば
春は深く息を吸い込み
夏の予感を胸に抱えて
静かに歩みを進める
私達はまた次の蕾を探しに立ち上がる
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