少年吸血鬼はハンターの未亡人に愛を捧げる
「えっ⁉︎」アルフォンスが短く驚きの声を上げた。
ナタリアはただ無様にヒュウッと息を吸い込むことしか出来なかった。
だがついさっき、ルカが誰かに似ていると感じたことを思い出した。
それは何度もナタリアの意識に過り、形にもならずに通り過ぎた感覚だった。
ルカとギルバートはその表情があまりにも違いすぎる。
だが、似ていると言われれば確かに、ルカとギルバート・イェーガーは体の雰囲気に、ひどく似通ったものがある。肩のラインや背の高い全体のシルエット、クセのあるこげ茶の髪。
今まで、ルカに対してどことなく既視感を感じていた。
(だけど⋯⋯親子ですって!?)
困惑しているのはナタリアだけではない。アルフォンスもまた、自身の執事の突然の告白を簡単には受け入れられないようだった。
「ルカ、お前は父が仲間に加えたダンピールのはず⋯⋯霧になる能力は⋯⋯純血のバンパイアと、人の命を吸い取った者のみが使えるはずだ」
アルフォンスが硬い表情で言葉を紡ぐ。上手くしゃべれないようで言葉がつかえる。
(血を飲んで人を殺していない者がダンピールと呼ばれると言っていたわ⋯⋯じゃあ、ルカは⋯⋯)
目の前に事実を突きつけられてなお、事実を認めたがらない年若いバンパイアであるアルフォンス。
ルカは彼の心を裏切っていたのだ。
少年の家族たちが自ら墓所に入って行ったにもかかわらず、ルカは何食わぬ顔でアルフォンスの隣に立っていたのだ。
玄関のステンドグラスの向こうでは、まだ黒い霧が渦巻いて、ギルバートの真っ白い顔が、何か叫びながら浮かんでは消え、浮かんでは消えしている。
「ごめんなさい・ルカ⋯私⋯⋯ギルバートを守れなかった! あの子は血に目覚めてしまった!」
アリシアが大粒の涙を流した。
「ルカ説明しろ、どういう事なんだ?」
アルフォンスの問いかけに答えたのはアリシアだった。
「手紙は、私が⋯⋯バンパイアの子を、産むのを許すと父シェイマス・イェーガーが書いた手紙のことでしょう⋯⋯」
アルフォンスが困惑した顔で自身の執事とアリシア・イェーガーを見た。
ナタリアは、その手紙こそが林檎の木の下に埋められた秘密に違いないと気付いた。
アリシアはきっと、ジェイの死骸と共にか、又は後にか、そこにその手紙を隠したのだ。
ルカが立ち上がって、一人の人物をひたと見つめた。
「全てをお話しします。ですが、その話を聞くべきでない人物がここにいます」
ルカの視線の定まるところにいる人物、それは部屋の隅で蹲ってブツブツと独り言を言っているベスだった。