この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!
 そして私は部屋に戻ってきた。

「本当に感じが悪いですわ、イザーク・カロン侯爵は!!」

 ドリーがプリプリと怒っている。

「それにあのロゼールという男も、軽薄な感じがしますし! シャルロット様になれなれしい口をきいて!!」
「そうかしら? 人懐っこい感じが似ているじゃない。親近感がわいたわ」
「誰にですか?」
「実家にいたパトリオットに」
「それ、犬じゃないですか!!」

 ドリーがたまらず噴き出した。パトリオットとは実家で飼われていた大きな愛犬だった。愛嬌が良くてお調子者、そんなところが家族に愛されていた。

「とにかく、まだなんとも言えないわ。時間がたてば仲良くなれるかもしれないし」
「そうだといいのですけどね」

 その後は特にすることもなかったので、部屋でドリーとお喋りをして過ごした。
 
 しばらくすると扉がノックされた。相手をしたドリーは、すぐさま戻ってきた。

「シャルロット様、昼食の準備がダイニングにできたそうです」
「もうそんな時間なのね」

 イザークはどんな態度を取るのだろうか。

「行きましょう」

 なにかを言いたげなドリーを連れて、ダイニングを訪れた。

 ダイニングの扉の前では執事長が立っており、私たちの姿が見えると頭を下げる。彼はガルドと名乗ったあと、私たちのために扉を開けた。

「こちらになります」

 ダイニングの長いテーブルの先に、イザークが席についていた。
 甲冑を脱ぎ捨て、すでに着替えている。

「お待たせいたしました」

 声をかけてみるが小さくうなずいただけ。別に私のことなど待っていないと、暗に告げているのを感じる。

 やがて昼食が運ばれてきた。
 まずはスープだった。今回は温かいことにホッとした。
 だが味の方はよく言えば上品、はっきり言うと薄味でぼやけていた。

 そこから次々と料理が運ばれてきた。
 肉は噛み切れないほど固い。パンは朝食べたものほどではないが、これもまた顎が鍛えられそうな一品だった。

 比べるのは悪いけれど、やはり南部は食糧に恵まれていたのだ。
 食卓には季節の果実が常に並び、毎食肉と魚の両方が出た。特に肉は赤ワインでホロホロになるまで煮込まれて、口の中に入れた瞬間、とろけるほどだった。

 でも贅沢を言っていられないわ。この味に慣れないといけない。

 モグモグと口の中で噛み続けるが、いかんせん、先ほど朝食を食べたばかりだ。お腹はあまり空いていない上に、こうもよく噛んでいるとすぐにお腹いっぱいになった。

「食べないのか」

 ふと手が止まるとイザークがたずねてきた。

「お腹がいっぱいで……」
「そうか。北部では食料は貴重だ。南部と違って」

 これは暗に残すなよ、もったいない、と釘を刺されているのだろうか。

「すみません。もとから小食なものでして」

 そこでふと思う。貴族の食事がこれならば、街に住む庶民たちの食事はどうなっているのだろう。

「そういえば私の持参金の一つとして、南部から運ばれた食料があったと思いますが……」

 北部に嫁ぐ娘を不憫に思った父が、これでもかというぐらい、お金と食料を持たせてくれた。最初は食べ慣れない物より、食べ慣れている方が口に入れやすいだろうとのことで、膨大な食料もあったはずだ。 

 塩漬けにして保存された肉などは、寒い北部では長持ちすると思われた。
 それに足りなくなると悪いから、定期的に食料を送るとまで言い残して両親は去った。あの調子では断っても送ってきそうだった。

 遠い地に一人嫁ぐ娘が心配で、せめて好きな物をお腹いっぱい食べさせ、不自由ないようにさせたいと思う、親心だろう。
 
「ああ、だろうな。倉庫を埋め尽くす勢いだった」
「使わないのですか」
「北部は北部の食料がある」

 要は間に合っている、必要ないということだ。

 イザークの意図はわからないが、あのまま倉庫で朽ちてゆくのなら、どうして使わないのだろうか。

 そして彼はどうして私を頑なに拒否するのかしら。

 そんなに嫌われるようなことをした覚えはないのだが、もう少し根気よく付き合ってみよう。

 噛み切れない肉をいつまでも口の中で咀嚼しながら、長期戦も覚悟した。
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