この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!
「楽しみですね、シャルロット様」
「そうね」

 窓の外の景色は曇り空だが、私の心は晴れていた。
 やがて街の外れにある、馬車の停留所に到着した。

「わあ、すごい」

 買い物客で行き交う人々で街はにぎわっていた。

「結構栄えているみたいね」

 早速ドリーと共に街を歩いてみた。

 この様子では馬番の少年が言った通り、治安は悪くないのかもしれない。昼間に女性が出歩けるのですもの。

 少し歩いてわかったことがある。街の北通りは貴族御用達の、高級店が立ち並ぶ。西通りは庶民の店で一番にぎわいを見せている。

 あと一本裏通りは治安が良くないので、あまり近づく者はいないということだった。

「ここはどこかしら」

 気をつけていたが、街のメインストリートから外れてしまったようだ。あまり人気のない場所に来てしまった。

 その時、背後からドンッと衝撃を受け、転んでしまった。

 いったい、なにごと!?

 弾みで軍資金として持ってきていた小銭入れを落としてしまう。

 それをすかさず拾い上げたのは、十二歳ぐらいの少年だった。すごい早さで走り去ろうとした瞬間、ドリーによって、むんずと首根っこを掴まれていた。

「――この無礼者。お前は誰に手をかけたのか、わかっているのか」

 少年の首には背後から銀色に光るナイフが当てられている。少しでも動いたら切れそうだ。

 少年は目を見開き、必死になって弁明した。

「ご、ごめんなさい。許してください……」
「許すわけない。その命で償え」

 ドリーはドスの利いた低い声を出す。少年は今にも泣きそうだ。

「ドリーもういいわ。離してあげて」
「ですが納得できません。シャルロット様を転ばせるなど……」

 ドリーは少年を抑えつけながらギリギリと歯ぎしりを見せた。

「な、なにをしているんですか」

 その時、背後から声が聞こえ、姿を現した人物はドリーに近づいた。

「とりあえず、ナイフをしまってもらえますか」

 あの長髪は――。

 イザークの部下、ロゼールだった。

 ドリーは目を細め、ジロリとロゼールに鋭い視線を向けた。

「……つけられている気配で気づいていたけれど、邪魔しないでくれる?」
「ささ、そんな物騒な物をしまっていただけますか? あなたがケガをしては大変だ」
「私がケガ?」

 ロゼールの心配を鼻で笑ったドリーは、ゆっくりとナイフを下ろした。

「こいつは警備隊にしょっぴいてもらえますか?」

 ドリーがロゼールに少年を押し付けた。見れば少年はガリガリに痩せ、身なりも粗末だった。

「いえ、いいのよ。あなたにも事情があったのでしょう」

 私は必死で止める。グッと唇を噛みしめ、少年に近づいた。

「シャルロット様……」

 ドリーはため息をつき、目に涙をためた少年はうなずいた。

「ずっとご飯を食べてなくて……弟と妹もお腹がペコペコで……」

 少年は恥ずかしそうにうつむいた。

 薄手の身なりに靴もボロボロだ。
 これからもっと寒くなってくるはずだ。彼はこの冬を越せるのだろうか。それも心配になるほどだった。

「あなた、ご両親は?」
「あ、父ちゃんは俺が小さい頃、魔物に襲われてしまって……」
「そうなのね……」

 今は魔物による被害が少ないと聞く。それはイザーク・カロン侯爵が統治するようになってからだそうだ

 毎日の見回り、みずからも総指揮官として魔物に立ち向かう。
 それにより、北部は昔よりも魔物の被害が減り、平穏が保たれているらしい。

 だが、こういった被害にあった人もいることを忘れてはいけない。

 なんとかしなくては。
 そのために北部に嫁いできたのだから――。

「あなたに、これをあげるわ」

 さきほどドリーと一緒に、屋台で売っていた焼き菓子を買ったばかりだった。それを少年に手渡した。少年はすぐさま受け取ると、深々と頭を下げた。

「もう行って。今度は危ないことをしてはダメよ」

 少年は何度もお礼を言いながら、裏路地へと消えた。
 彼が立ち去ったあと、ロゼールと向き合う。

「それで、あなたがどうしてここにいるの? ロゼール」
「それはこちらの台詞です、シャルロット様。馬番から聞いて、慌てて飛んできましたよ! いったいどうしたのですか、護衛もつけないなんて!」

 話を聞くと、愛馬に餌をやろうと馬小屋に行く途中、馬車に乗り込む私たちを見かけたそうだ。不思議に思い、馬小屋の少年に聞いたところ、街に出かけたことを知ったようだ。
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