この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!
「魔物の奇襲にばかり気を取られて、そこまで気が回らなかったのも事実だ。本来なら、南部からきたあんたが気づく前に我々がやるべきだった」

 イザークは素直に私の行動を褒めてくれた。嬉しいと思うが、やっぱり私はまだ彼にとっては南部の人間、という物差しなのね。

 まだまだ彼と親しくなるには、先は長いということだろう。

「私も楽しんでやっています」

 別に苦労しているつもりはない。私が直接動いたのは最初だけ。最近は人を雇い、お金を出しているだけだ。

「それに私、お金だけはたくさんありますので!」

 顔の横で指を丸め、ジェスチャーして見せる。最初、イザークはあっけに取られ、目を丸くした。

 はしたないと、あきれているのかしら。

 だが噴き出すと、口元を手で押さえた。

「……確かにな。さすが南部の侯爵家は富豪だな」

 えっ、今褒められたのかしら?

 調子に乗った私はイザークに宣言した。

「これからもじゃんじゃん使いますわ。お金がある方が使うからこそ、経済が回るのですし。私が使わなくて誰が使うというのですか」

 昔から物欲があまりなかったので、持参金を福祉に使うことに抵抗がない。むしろ自分のことより、北部の発展の方が優先よ。それが使命のように思えた。

「せっかく縁あって北部に来たのですから、自分のできる範囲で動きたいだけですわ」

 お腹を空かせた人たちが嬉しそうに食べる一杯のスープ。その笑顔を見ているだけで、幸せになれる。

「これからも、行動していいですか?」

 一応、イザークに確認を取る。あとから知らなかったと責められては困るから。

「好きにするといい」

 イザークは腕を組み、フッと微笑む。

「どうせ止めてもやるのだろう?」

 そうよ、やりたくなったら行動に移してしまうものね。

「ええ。これからもじゃんじゃんお金を落としますので。お楽しみに」

 どうせ使いきれない私のお金。だったらこの北部にすべて費やそう。それにもし、お金が必要になったら、私が資金を作ってもいい。実のところ、それだけの力を持っているのだ。

「それこそ、ロゼールにもたくさん手伝ってもらいました」

 人を集めてくれたのも全部彼のおかげ。私はお金を出しただけだ。

「炊き出しも、彼がいたからこそ実現したことです。最近ではよく傍にいてくれて、まるで私の護衛騎士みたいだねって、ドリーと話していて……」

 ロゼールの名前を出した途端、それまで微笑んでいたイザークが固まった。

 あっ、これは勝手に護衛騎士だと発言したのがまずかったか。彼はイザークの大事な部下だというのに。

「ロゼールを勝手に振り回してごめんなさい」
「……いや、いいんだ」

 その割にはどこか納得していないような声を出すじゃない。イザークは口に手を当て、考え事をしているのか険しい顔で地面を見つめている。

 さきほどまで和んでいた雰囲気だったのに、今では微妙な空気が流れていることに焦った。

 やはり、彼の大事な部下を私用で使ったことが面白くないのだろうか。だがもうしばらく、ロゼールを貸してもらわないと私は困る。

「あの……」

 声をかけるとイザークは顔をパッと上げる。

「今後もロゼールに協力していただけますか?」

 食堂の運営が軌道に乗れば、彼を解放できる。

 両手を組み、彼の顔をジッと見つめる。

「……お願いします」

 彼は私に見つめられ、ウッと言葉に詰まる。

「いいだろう」

 やった、彼の了承を得た私はウキウキした。

「ありがとう!」

 イザークの手をガシッとつかんだ。

「彼は人と接するのが上手ですので、人を集めるのに長けているのです。人脈もあるのか、彼のもとには人が集まってくるので、とても助かっています。もうしばらく、食堂が軌道に乗るまでお手伝いしていただきたく思います」
「わかった」

 イザークは私の勢いに若干引き気味に返答した。

「――ロゼールは人を惹きつける不思議な力がある奴だからな」
「そうですね、優しいし、気が利くし。一緒にいると楽しくて、私ずっと笑っている気がします」

 ロゼールはよく冗談を口にするので、そのたびに笑顔になる。脇でドリーが冷めた目でロゼールにツッコんでいるが、そのかけあいもまた、面白いのだ。

「……楽しい? ロゼールといると?」
「はい、とっても」

 満面の笑みで答えるとイザークは横を向き、険しい表情を見せた。やがて私を真正面から見据えた。

「俺は……?」
「えっ?」
「俺とはどうなんだ?」

 イザークはごくりと息を呑んだ。

 思ってもみなかった質問に、私は目を丸くした。
< 36 / 73 >

この作品をシェア

pagetop