この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!
 だが、ガルドが止められるはずもない。

 シャルロットはおっとりとしているように感じるが、芯は強い。
 その彼女が決めたのなら、たとえ屋敷の使用人総出でも、引き止めることは不可能だっただろう。

 だがなぜ――。

 扉からは心配そうにこちらをのぞき込むロゼールの姿もあった。

「イザーク様……」

 声をかけられるが、顔をフッと逸らす。

「……一人にしてくれ」

 その一言で、ガルドとロゼールは静かに部屋を去った。

 そのまま俺は主のいなくなった部屋でたたずんでいた。

 なぜ、シャルロットは黙って帰ってしまったのだろうか。

 俺のなにがいけなかったのだろう。

 魔物討伐で屋敷を留守にしすぎたのがいけなかったのか?

 いや、前から留守にすることは多々あった。彼女も慣れてきたとばかり思っていた。

 でもそれは自分の勘違いだったら?

 俺から逃げる絶好の機会だと思ったのだろうか。

 考え込むと足に力が入らなくなり、ソファに腰を下ろした。

 ふと、ロルサの花を手にしていたことに気づく。
 動揺のあまり、持ってきてしまったらしい。

 渡したい相手は、もうここにはいないというのに――。

 その事実が自分をまた苦しめる。手にした花束を無造作に机に叩きつけた。
 ハラハラと落ちる花びらを見て、なんともいえない気持ちになる。

「クソッ……」

 口汚く罵ってみるが、彼女にではない。自分自身に対してだ。

 急に帰りたいと思うほど、追い込んでしまったのかもしれない。なにかを悩んでいたのなら、気づいてやれずに申し訳ない気持ちになる。

 そんな心中を察することもできず、浮かれていた自分が恥ずかしい。
 それならば、俺に対する不満などを言ってくれないだろうか。

 なにが――なにが気に入らなかったんだ、彼女は。

 俺のすべてだと言われてしまうのも怖いが、弁解の余地も残ってはいないのだろうか。

 書き置きの一枚すら残っていないことが、まるで彼女の俺への感情そのもののように思えた。

 俺のことを見捨て、見切りをつけたのだろうか。

 このまま南部に帰り、離縁届が送られてくるのではないか――。

 悶々とした気持ちを抱えたまま、どれぐらい考え込んでいただろう。

 扉がノックされる音でハッと気づく。

 返事をすると、恐る恐る顔を出したのはロゼールだった。

「大丈夫ですか? 暗い部屋で暖炉もつけずに……」

 気づけば外はもう暗くなっていた。そんなことに気づかないぐらい、時間が経っていた。

「ああ」

 すっと立ち上がると、ロゼールに顔を向けた。

「明日、ここを出発し、南部に向かう」

 ロゼールは目を見開き、口を大きく開けた。

「――やはり、直接会って話を聞かねば、納得できない」

 ここで悩むぐらいなら、直接話がしたい。
 握った拳にギュッと力を込めると、ロゼールは身を乗り出した。

「だったら、俺もお供します。道中、なにかあると危険なので」
「――ああ、頼んだ」

 ロゼールは護衛のための人を集めると言った。

「魔物の討伐の件もあるから、手薄にもできまい。そうだな、三名ほど選んでくれ」
「承知いたしました」

 ロゼールは返答すると、すぐさま準備のために姿を消した。

 彼女の顔を見て、事情を確認しよう。
 でなければ納得できない。

 それがたとえ辛い結果となり、到底受け入れることができなくとも、ここで待ち続けるよりましだ。
 帰ってくるかもわからない彼女を待ち続けることは、拷問に思えた。

 南部に向かい、彼女と話をする。

 固い決意と共に唇をギュッと噛みしめた。

 ***

「お気をつけてください」
「ああ、ガルド。留守は頼む」
「お任せください」

 深々と頭を下げるガルドと使用人たちに見送られ、屋敷をあとにした。

 ここから南部へは三日ほどかかる。
 シャルロットは馬車に乗り、帰ったらしい。

 だが俺たちは馬と共に出発した。その方が自由に身動きが取れるだろうと見越してだ。

「――出発するぞ」
「はっ!」

 ロゼールを含め、四人の若い騎士が同行することとなり、俺を含め五人となる。

 無事に彼女に会えることを祈りつつ、馬を走らせた。
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