この恋現在進展中!!
恋の音

恋が始まる音


 放課後の音楽室は、いつも異常に静かだった。

私が部長になったあの日から何日たっただろう、未だに部員たちとは少し距離がある気がするし、私なんか適していなかったんじゃないかと思う。

 窓から入ってくるオレンジ色の光が、サックスの金色を柔らかく照らしていた。

「、はぁ」


 小さく息をついて、さっきまで吹いていた楽器からリードを外す。今日はあんまり集中できていなかった気がする。そろそろコンクール日本語詞を入れなくちゃいけない季節だっっていうのに、私は本当に何をしているんだろう。

 私なんかよりももっと部長に適任な人がいたはずだ、例えばー

「まだおってん」

 後ろから聞こえた関西弁に、心臓が一気に跳ね上がった。振り返らなくたってその声の主が誰かは分かっている。同じクラスで、同じ部活、私なんかよりも人を引っ張ることが得意で、誰からも好かれる「立花(たちばな)雅緋(みやび)」。


 そして私の好きな人。


「ちょっとだけ練習してたの、今日家帰っても誰もいないから」

 できるだけ普通に返したつもりなのに、声が少し上ずったような気がした。

「持ってかえたらよかったのに、愛莉鈴(ありす)はほんまに真面目やな」

 そう言って近くの椅子を持ってきて私の隣りに座った。距離が近すぎる、無理。

「別に、最近集中できてなかったし」

 視線を合わせられない、こういうトコほんとに直さなくちゃいけないのに。本当はもっと自然に話したいって思ってるのに。
 そんな事を考えていると雅緋は自分の楽器ケースを持ってきて片付けを始めていた。

「今日の合奏みんなちょこっとずつズレとったやん」

「あ、うん、ごめん」

 反射的に謝ってしまったのに対して

「いや、ちゃうくて」

雅緋は軽く笑って

「俺もズレとったから」

っていう。本当にそういうところがずるい。雅緋の大好きな所。

「主旋律多いし、合わせるのむずいよなソプラノは」

「、うん」

 本当はもっと女の子っぽい楽器とかみんなが知ってる楽器やりたかったけど、ソプラノサックスじゃなきゃ雅緋と仲良くなれなかったのかもしれないと思うと本当に幸せだと思う。

「なあ」


 不意に話しかけられてびっくりする。急に顔を上げると目があった。

「次の練習も一緒にやろ」


『アリスとやるの楽しいでなー』何時だったかそんな事言われたことを思い出していた


「うん」

 それしか言えなくて、でも胸の奥が少しづつじんわりと暖かくなっていた。

追われる恋もいいけどこれも悪くないなと思いながら。

多分、雅緋は私が雅緋のこと好きなんて気が付いていない、でも完全に脈ナシってわけでもなさそうで、そんな動きそうで動かない、微妙な距離が苦しくて、辛くて、でもちょこっと楽しい。

「じゃ、帰ろか」

 ケースを持ち帰る。明日は祝日だから楽器を持って変えるのかそのままカバンを置いている音楽室まで直接足を運んでいた。

「雅緋、まって」

 思わず呼び止めてしまった、自分でもびっくりするぐらいに自然すぎる流れで。

「どしたん?」

少し心配そうな顔つきで雅緋は私の顔を除いてきた。

「あした、暇?」
「よかったらどこか行って一緒に合わせたい」

 雅緋は楽器が大きいから持っていくだけで大変なはずなのに。

一瞬だけ、ほんの少しだけ驚いた顔をして

「ええよ、どこ行こか」

って、優しく微笑んだ。

その日の帰り道、隣を歩きながら思った。まだ私は「すき」だなんて言えないし、きっとまだ曖昧な関係は進んでいくんだろうなって。
でもそれでも良いのかもしれない。

少しづつ、ほんの少しだけでも一日一日距離を縮められればそれで良いんだろって
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