追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 どうにかしたいと藍は、諦めずに体を動かして、離れようとしていた。

通りがかりのゆうは、藍の様子がおかしいと走り寄った。掴まれている腕を外して、藍を背中側に回して岡田と向き合った。

「何してるの。藍ちゃん大丈夫?」
「ゆうさん」
「なんだ。お前もあの男とグルなのか?藍をたぶらかしやがって」
「最低な男ね。藍ちゃんが嫌がっているでしょ。あんた誰?」
「藍の婚約者だ」
「婚約なんてしてないわ。貴方とは終わりだって言ってるでしょ」
「うるさい。今更なんだよ」

藍の腕をつかもうと手を伸ばしてきたが、ゆうば岡田の手を振り払った。

「何だよ。藍を返せ」
「やめてよ。藍ちゃんが嫌がってるって言ってるでしょ。誰か警察呼んで、痴漢よ!」
「何言ってるんだ叫ぶなよ」

通りがかりの人達が、岡田を不審者と思い、遠巻きに見ていた。あたりを見渡して岡田は言った。

「藍、諦めないからな」と言うと、いたたまれなくなって走り去った。周りにいた人達は、岡田が立ち去ると、散らばるようにいなくなっていた。


藍の顔色が悪いのに気づき、心配してゆうは顔を覗き込んだ。

「藍ちゃん、大丈夫?」
「はい…」
「何、あの男。失礼ね」
「私の元カレです」
「だから、しつこいのね」
「ゆうさん、助けてくれてありがとう」
「藍ちゃんが困ってるんだから助けるわよ」

藍は疲れた顔で微笑んだ。ゆうがいなかったら、どうなったんだろう。岡田に連れ戻されたらと思っただけでも怖くなっていた。

あんな人とは思わなかったのだ。いつも藍に優しくて、甘えさせてくれていた。

いつの日からか、冷え切っていた。いつからだろうか、考えても昔すぎて思い出せなかったのだ。

ゆうは藍と駅まで行き、電車に乗り込んだ。沈んでいる心の悲しみは伝わってきた。

だが藍もいい大人なのだから、詮索できないのだった。電車の中では無言で、ゆうは見守っていた。
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