こっちを向いて、ヴェルランド。
ⅩⅩⅤ【閃光の速記術】
ヴェルランドが王国シリウスにある、一際大きな屋敷の屋根に降り立つと、一目散に天窓を割って室内へと侵入する。当然警報器など切っていない為、屋敷全体が厳戒態勢となるが今のヴェルランドにとってそんな事はどうでもいい。

「いたぞ!侵入者だ!!」

早速、屋敷常駐の兵達に取り囲まれるが、人間相手なら負ける事はない。

ヴェルランドは冷静に一人ずつ鎮圧していくと、迷わず地下牢を目指す。

この屋敷は過去に警備にあたった事がある。故に地図は頭に入っている。

(確かこちらに…)

ヴェルランドは一つの部屋に入り込むとその光景を見て驚く。

「扉が…開いている…」

地下牢への扉は本棚の裏に隠されている。所詮隠し通路と言われるものだが、何故か今日に限って扉が開け放たれている。

「何をしている…」

背後から、声をかけられヴェルランドは慌てて振り向いた。

そこには、武器を構えたアルベルトの姿があった。片手には何故か折りたたみ式のテーブルを抱えている。

「あんたこそ、何をしている…、家具の移動か?」

ヴェルランドはどこか挑発した様子で尋ねるとアルベルトは分かりやすく顔を顰めた。

「これから、彼女と最後の晩餐に洒落込むつもりだったが…、どうやら、俺の勘違いだったらしい」

アルベルトはそう言うと、片手に持った折りたたみ式のテーブルを苛立たしげに壁へと放り投げる。

「物は大事に扱えと習わなかったのか?」

「所詮は消耗品だ。俺も…、お前もな…。あの女なら今頃ダンゼルに捕まってるかもな。ここには居ない」

「ほう、それで?私を殺さないのか?」

ヴェルランドの言葉にアルベルトはどこか諦めた様にその場に座り込む。

「勝てない相手と勝負はするな…。元ゼロ部隊のあんたならよく知ってるだろ?」

「賢明な判断だな…」

ヴェルランドはそう言うと、部屋から出ようとする。

「彼女の居場所は知らないが、俺なら奴の執務室に行く」

「執務室…?」

「あぁ。あそこは俺達ゼロ部隊でも足を踏み入れちゃ行けない決まりになっている。なんでも触られたく無いものがあるんだと。それが何かは知らないが、彼女の居場所を解くヒントになるかもしれない」

「…」

「何故そんな事を教えるのかって顔だな…。俺だって惚れた女がダンゼルの妻になるのは正直反対だ。あんな奴の嫁になるくらいなら国帰った方がいい…、まぁ最初は彼女の護衛として側に居られるならそれもいいと思ったが、あんたの顔を見て気が変わった…」

「フン、何も聞いていないが?」

ヴェルランドはそう吐き捨てると、静かに部屋を後にした。

(なかなか、筋のいい奴だ…)
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