こっちを向いて、ヴェルランド。
庭先から直接、門の前へと姿を現したヴェルランドは門を叩く女の姿を見てその場に固まった。
「すみませーん!」
しかし、女は気配に気づいてないのか、門を叩き続けている。
「…」
ヴェルランドは少し動揺した様子で、暫く女の様子を伺っていると、ようやく女がこちらに気がついたのか、大きな鞄をもって掛けてきた。
「居た居た!良かった!」
女は帽子を脱ぐと、暑かったーと言ってパタパタと仰ぎ始める。
ヴェルランドはなんとか、冷静さを保つとようやく口を開いた。
「何をしている…、リーリエ」
「何って…、面接?」
リーリエは嬉しそうに微笑むと、居住いを正す。
「国はどうした?」
ヴェルランドの問いかけに、リーリエは少し驚いた表情を見せると、また直ぐに笑顔に戻る。
「あら、存じ上げないの?。我が国カノープスはあれから立憲君主制になったんです」
「は?」
カノープスの記事を遠ざけて過ごしていたヴェルランドにとってそのニュースは初耳である。
「一応、公務はあるんですけど、なんかそれだけだと退屈で…、それで副業でもと!」
「いや、待て。それで何故こんな小さな村の家政婦に応募する…」
すると、リーリエは少し照れくさそうに視線を逸らした。
「あら、そんな野暮な事聞きます?」
「…」
「さぁ、早く面接して頂戴な」
「お前は…、家政婦という仕事が何か知っているのか?」
「もちろん!お料理に、お掃除に、お洗濯でしょ?」
「…出来るのか?」
「…これから、頑張ります!」
リーリエの発言にヴェルランドは思い切り溜息を吐く。
「あー…、リーリエ、すまないがお前にはー」
すると、何かに気がついたのかリーリエは庭先の方へと掛けていった。
「おい!」
「リリィ王女のお墓これかしら?、お参りしてもいい?」
ヴェルランドは仕方なく頷くと、リーリエはお墓の前に両膝をついて手を合わせる。
「その節は、お世話になりました…」
一瞬、その言葉の意味にヴェルランドは小首を傾げるが、直ぐに頭を横に振った。
「リーリエ、すまないが、今回はー」
「さて、これでよしと!」
リーリエは話を遮る様に立ち上がると、少し寂しそうにヴェルランドに微笑みかける。
「わかってます…。別に家政婦になれるとは思っていません。でも、私は貴方に恩返しがしたいのです。雑用でも何でも構いません。お金も一円も要りません。ですから、何かやらせて下さい。お願いします…」
リーリエはヴェルランドを見つめたまま、小さな声でお願いをする。
どうやら、端から雇われにきた訳ではないらしい。
「リーリエ、しかし…」
仮にも彼女は一国のお姫様だ。雑用なんてさせられる訳がない。すると、ヴェルランドの内心を察したのかリーリエは残念そうに瞳を伏せる。
「やはり、私では駄目…でしょうか…」
「…」
「私、貴方のことが好きです…。どうしようもなく…、これでも頑張って公務の合間に会いにきたのですよ。貴方に会いたくて」
「…」
「お父様も貴方の所ならと外出を許して下さいました…」
困った様に黙り込んでしまったヴェルランドにリーリエは言葉を続ける。ここで退いてはここに来た意味がない。
「本当に無理ならこれでお暇します。でも、少しでも、ほんの一ミリでも私に可能性があるなら……」
リーリエはそこで一呼吸置く。
心臓は跳ね上がり、今にも口から出てきそうだ。
言わなくては、
伝えなくては、
私は今日、その為にここに来たのだからー。
「私に、貴方の側に居られる理由を下さい」
ヴェルランドはその言葉に、目を見開く。
「…」
「…」
「恋人でなくてもいいのです。その…、貴方と一緒に居られるなら、友人でも…、ただ、私は…、貴方と離れたくないのです…お別れしたく無いのです…」
今にも顔から火を吹きそうな勢いのリーリエにヴェルランドは視線が離せなくなる。
「ですから…、その…その…」
「…」
「だから、その…!」
「では、お前には屋敷を綺麗な花で飾って欲しい」
「え…、?」
間の抜けた声を出すリーリエに、ヴェルランドは優しく微笑む。
「聞こえなかったのか?お前には屋敷を綺麗な花で飾って欲しい」
「お花…?」
「出来るか?」
「はい!もちろん!」
「ただし、私はお前を姫様扱いはしない。しっかりと働いてもらうからな」
ヴェルランドの言葉にリーリエは姿勢を正して敬礼する。
「は、はい!ボス!」
ボスになった覚えはないが、顔を真っ赤にして嬉しそうに瞳を輝かせるリーリエの姿にヴェルランドは柄にも無く照れ臭くなり思わず視線を逸らす。
「リーリエ…」
「何です?」
「…おかえり」
「えーっと…、ただいま?」
「何故、疑問形だ?」
ヴェルランドは可笑しそうに笑うと、リーリエは恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「だって…、こっちを向いてくれないから…」
「あぁ…、すまない」
ヴェルランドは少し戸惑いながらも視線を戻す。しかし、リーリエは今だにそっぽを向いたままだ。
「…そう拗ねるな」
「拗ねてません…」
すると、ヴェルランドは少し根負けした様子でリーリエの身体を優しく抱き寄せる。
「これでも、不満か?」
困った様に尋ねるヴェルランドにリーリエは苦笑する。
「不満です…」
「…」
「ねぇ、ヴェルランド」
「…なんだ」
「ちゃんとこっちを向いて?」
「…」
「ねぇ、お願い…」
「…」
すると、ヴェルランドは意を決したようにリーリエの頭に、そっと口付ける。
そして、今度はしっかりと視線を合わせると、少し熱を帯びた声色で再び口を開いた。
「おかえり…。リーリエ」
彼らしい真面目で実直な態度にリーリエは目を見開くと、恥ずかしそうに頭を触って微笑んだ。
「ただいま、ヴェルランド!」
交わる視線の先、
二人の未来はまだまだ遠いけど、
きっといつか、辿り着く。
(やっと、私を見てくれたー。)
【こっちを向いて、ヴェルランド】
⭐︎end⭐︎
「すみませーん!」
しかし、女は気配に気づいてないのか、門を叩き続けている。
「…」
ヴェルランドは少し動揺した様子で、暫く女の様子を伺っていると、ようやく女がこちらに気がついたのか、大きな鞄をもって掛けてきた。
「居た居た!良かった!」
女は帽子を脱ぐと、暑かったーと言ってパタパタと仰ぎ始める。
ヴェルランドはなんとか、冷静さを保つとようやく口を開いた。
「何をしている…、リーリエ」
「何って…、面接?」
リーリエは嬉しそうに微笑むと、居住いを正す。
「国はどうした?」
ヴェルランドの問いかけに、リーリエは少し驚いた表情を見せると、また直ぐに笑顔に戻る。
「あら、存じ上げないの?。我が国カノープスはあれから立憲君主制になったんです」
「は?」
カノープスの記事を遠ざけて過ごしていたヴェルランドにとってそのニュースは初耳である。
「一応、公務はあるんですけど、なんかそれだけだと退屈で…、それで副業でもと!」
「いや、待て。それで何故こんな小さな村の家政婦に応募する…」
すると、リーリエは少し照れくさそうに視線を逸らした。
「あら、そんな野暮な事聞きます?」
「…」
「さぁ、早く面接して頂戴な」
「お前は…、家政婦という仕事が何か知っているのか?」
「もちろん!お料理に、お掃除に、お洗濯でしょ?」
「…出来るのか?」
「…これから、頑張ります!」
リーリエの発言にヴェルランドは思い切り溜息を吐く。
「あー…、リーリエ、すまないがお前にはー」
すると、何かに気がついたのかリーリエは庭先の方へと掛けていった。
「おい!」
「リリィ王女のお墓これかしら?、お参りしてもいい?」
ヴェルランドは仕方なく頷くと、リーリエはお墓の前に両膝をついて手を合わせる。
「その節は、お世話になりました…」
一瞬、その言葉の意味にヴェルランドは小首を傾げるが、直ぐに頭を横に振った。
「リーリエ、すまないが、今回はー」
「さて、これでよしと!」
リーリエは話を遮る様に立ち上がると、少し寂しそうにヴェルランドに微笑みかける。
「わかってます…。別に家政婦になれるとは思っていません。でも、私は貴方に恩返しがしたいのです。雑用でも何でも構いません。お金も一円も要りません。ですから、何かやらせて下さい。お願いします…」
リーリエはヴェルランドを見つめたまま、小さな声でお願いをする。
どうやら、端から雇われにきた訳ではないらしい。
「リーリエ、しかし…」
仮にも彼女は一国のお姫様だ。雑用なんてさせられる訳がない。すると、ヴェルランドの内心を察したのかリーリエは残念そうに瞳を伏せる。
「やはり、私では駄目…でしょうか…」
「…」
「私、貴方のことが好きです…。どうしようもなく…、これでも頑張って公務の合間に会いにきたのですよ。貴方に会いたくて」
「…」
「お父様も貴方の所ならと外出を許して下さいました…」
困った様に黙り込んでしまったヴェルランドにリーリエは言葉を続ける。ここで退いてはここに来た意味がない。
「本当に無理ならこれでお暇します。でも、少しでも、ほんの一ミリでも私に可能性があるなら……」
リーリエはそこで一呼吸置く。
心臓は跳ね上がり、今にも口から出てきそうだ。
言わなくては、
伝えなくては、
私は今日、その為にここに来たのだからー。
「私に、貴方の側に居られる理由を下さい」
ヴェルランドはその言葉に、目を見開く。
「…」
「…」
「恋人でなくてもいいのです。その…、貴方と一緒に居られるなら、友人でも…、ただ、私は…、貴方と離れたくないのです…お別れしたく無いのです…」
今にも顔から火を吹きそうな勢いのリーリエにヴェルランドは視線が離せなくなる。
「ですから…、その…その…」
「…」
「だから、その…!」
「では、お前には屋敷を綺麗な花で飾って欲しい」
「え…、?」
間の抜けた声を出すリーリエに、ヴェルランドは優しく微笑む。
「聞こえなかったのか?お前には屋敷を綺麗な花で飾って欲しい」
「お花…?」
「出来るか?」
「はい!もちろん!」
「ただし、私はお前を姫様扱いはしない。しっかりと働いてもらうからな」
ヴェルランドの言葉にリーリエは姿勢を正して敬礼する。
「は、はい!ボス!」
ボスになった覚えはないが、顔を真っ赤にして嬉しそうに瞳を輝かせるリーリエの姿にヴェルランドは柄にも無く照れ臭くなり思わず視線を逸らす。
「リーリエ…」
「何です?」
「…おかえり」
「えーっと…、ただいま?」
「何故、疑問形だ?」
ヴェルランドは可笑しそうに笑うと、リーリエは恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「だって…、こっちを向いてくれないから…」
「あぁ…、すまない」
ヴェルランドは少し戸惑いながらも視線を戻す。しかし、リーリエは今だにそっぽを向いたままだ。
「…そう拗ねるな」
「拗ねてません…」
すると、ヴェルランドは少し根負けした様子でリーリエの身体を優しく抱き寄せる。
「これでも、不満か?」
困った様に尋ねるヴェルランドにリーリエは苦笑する。
「不満です…」
「…」
「ねぇ、ヴェルランド」
「…なんだ」
「ちゃんとこっちを向いて?」
「…」
「ねぇ、お願い…」
「…」
すると、ヴェルランドは意を決したようにリーリエの頭に、そっと口付ける。
そして、今度はしっかりと視線を合わせると、少し熱を帯びた声色で再び口を開いた。
「おかえり…。リーリエ」
彼らしい真面目で実直な態度にリーリエは目を見開くと、恥ずかしそうに頭を触って微笑んだ。
「ただいま、ヴェルランド!」
交わる視線の先、
二人の未来はまだまだ遠いけど、
きっといつか、辿り着く。
(やっと、私を見てくれたー。)
【こっちを向いて、ヴェルランド】
⭐︎end⭐︎


