脱走ボーイ
Episode.4
その優し気な女性は僕を抱いたまま、歩き出した。
どこに連れて行かれるのかと思っていると、女性はあの一面ガラス張りのお店の前で立ち止まった。
「お待たせ、レディ。この仔猫、無事だったわよ。ケガもなし。毛並みも綺麗だし、人馴れしていて可愛いわ」
女性があの大きな犬の前に座り、鼻先に僕を近づけた。
ー あら、あなた……。もしかしてサイベリアンの仔猫?
ー ……うん。僕はサイベリアンのボーイです……。
助けてくれた女性と同じように気品のある犬が話し掛けてきた。
ー Boy? やだわ、あなたどう見たってKidじゃない。仔猫が大人ぶるのはやめなさい。
ー ???
あれ? さっきも茶トラ猫とこんな会話をしたような。
ー 僕……、ボーイって名前なんです。お姉ちゃんが名付けてくれました。
ー あ、なるほど。ボーイって名前なのね。紛らわしいわねぇ。私はシベリアンハスキーのレディって名前よ。同じシベリアの出身同士、よろしくね。
「ねぇ、レディ。この子は迷い猫かしら。それとも脱走でもしてきたのかしら? 見たところサイベリアンのブルータビーホワイト。生後まだ四、五ヶ月ってところね。飼い主が見つからなかったら我が家で飼おうかしら」
女性が僕の背中を撫でながらレディに話し掛けた。
レディは僕の顔をちらりと見遣るとくぅんと女性に向かって鳴き、鼻先を向けて突ついてきた。
ー ボーイ、よく聞きなさい。あなたは飼い猫よね? もしお家から脱走したのなら、すぐに帰りなさい。
ー え……?
同じだ。あの茶トラ猫と同じことをレディも……。
ー きっと、ボーイは外の世界を夢見て、自由になりたくてお家から脱走したんでしょうね。でも、産まれてからずっと人と暮らしてきた猫が外で生きていくのはムリよ……。
ー それは……やってみないと。
ー あらあら、ほんとうはそんなこと思ってもいないのに。今のあなたは、外の世界を垣間見て怯えている。これからどうすればいいのかって。
ー …………。
どうしてレディは僕の気持が分かるの?
茶トラ猫とレディの言い分と心配してくれる気持ちも分かる。
そして縄張りを守ろうとする、敵意に満ちた猫の行動も理解出来る。
そして、おちおち歩けないような危険な道路。
自由にはなりたい。冒険もしてみたい。
でもそれは……、一人で生きていけることが出来るという前提があってのもの。
今の僕は、とてもとても一人で生きていける自信なんてない……。
ー ねえ、ボーイ。ご飯も出てくるし快適な室温の中で、雨風をしのげる家で暮らせるって、とても幸せなことなのよ。
ー うん……。僕、ご飯をどうやって調達すればいいのかも分からない……。
ー そうね、実を言うと私も分からないわ。私も産まれてから、今の飼い主とずっと一緒に暮らしてきたわ。確かに自由はないけれど、それに代わる有り余るほどの愛情をもらっているの。それが幸せなんだなって思うようになったわ。ボーイもお家で、とても大切にされているでしょう?
ー うん。だめだめって言われるけど、大切にしてくれるよ。
ー なら、お家に帰りなさい。このままだと、私の飼い主があなたを飼う気まんまんだから。もう二度と、今の飼い主に会えなくなるわよ。
ー えっ!? レディの家に連れて行かれちゃうの。
レディはとても優しい。飼い主もきっと優しい良い人だろう。
でも、でも僕は……。
ぽやんとしたお姉ちゃんに、脇の甘い天然のママとしっかり者のパパと一緒に暮らしたい……。
どこに連れて行かれるのかと思っていると、女性はあの一面ガラス張りのお店の前で立ち止まった。
「お待たせ、レディ。この仔猫、無事だったわよ。ケガもなし。毛並みも綺麗だし、人馴れしていて可愛いわ」
女性があの大きな犬の前に座り、鼻先に僕を近づけた。
ー あら、あなた……。もしかしてサイベリアンの仔猫?
ー ……うん。僕はサイベリアンのボーイです……。
助けてくれた女性と同じように気品のある犬が話し掛けてきた。
ー Boy? やだわ、あなたどう見たってKidじゃない。仔猫が大人ぶるのはやめなさい。
ー ???
あれ? さっきも茶トラ猫とこんな会話をしたような。
ー 僕……、ボーイって名前なんです。お姉ちゃんが名付けてくれました。
ー あ、なるほど。ボーイって名前なのね。紛らわしいわねぇ。私はシベリアンハスキーのレディって名前よ。同じシベリアの出身同士、よろしくね。
「ねぇ、レディ。この子は迷い猫かしら。それとも脱走でもしてきたのかしら? 見たところサイベリアンのブルータビーホワイト。生後まだ四、五ヶ月ってところね。飼い主が見つからなかったら我が家で飼おうかしら」
女性が僕の背中を撫でながらレディに話し掛けた。
レディは僕の顔をちらりと見遣るとくぅんと女性に向かって鳴き、鼻先を向けて突ついてきた。
ー ボーイ、よく聞きなさい。あなたは飼い猫よね? もしお家から脱走したのなら、すぐに帰りなさい。
ー え……?
同じだ。あの茶トラ猫と同じことをレディも……。
ー きっと、ボーイは外の世界を夢見て、自由になりたくてお家から脱走したんでしょうね。でも、産まれてからずっと人と暮らしてきた猫が外で生きていくのはムリよ……。
ー それは……やってみないと。
ー あらあら、ほんとうはそんなこと思ってもいないのに。今のあなたは、外の世界を垣間見て怯えている。これからどうすればいいのかって。
ー …………。
どうしてレディは僕の気持が分かるの?
茶トラ猫とレディの言い分と心配してくれる気持ちも分かる。
そして縄張りを守ろうとする、敵意に満ちた猫の行動も理解出来る。
そして、おちおち歩けないような危険な道路。
自由にはなりたい。冒険もしてみたい。
でもそれは……、一人で生きていけることが出来るという前提があってのもの。
今の僕は、とてもとても一人で生きていける自信なんてない……。
ー ねえ、ボーイ。ご飯も出てくるし快適な室温の中で、雨風をしのげる家で暮らせるって、とても幸せなことなのよ。
ー うん……。僕、ご飯をどうやって調達すればいいのかも分からない……。
ー そうね、実を言うと私も分からないわ。私も産まれてから、今の飼い主とずっと一緒に暮らしてきたわ。確かに自由はないけれど、それに代わる有り余るほどの愛情をもらっているの。それが幸せなんだなって思うようになったわ。ボーイもお家で、とても大切にされているでしょう?
ー うん。だめだめって言われるけど、大切にしてくれるよ。
ー なら、お家に帰りなさい。このままだと、私の飼い主があなたを飼う気まんまんだから。もう二度と、今の飼い主に会えなくなるわよ。
ー えっ!? レディの家に連れて行かれちゃうの。
レディはとても優しい。飼い主もきっと優しい良い人だろう。
でも、でも僕は……。
ぽやんとしたお姉ちゃんに、脇の甘い天然のママとしっかり者のパパと一緒に暮らしたい……。