乙女ゲームの親友ポジに転生した天才チート系令嬢、ストーリーのそのあとの方が大変だった件

「えええええ!? レイスが来てたの!? なんで呼んでくれなかったのおおお!?」
「仕方ないだろう。他にもやることが山積みなんだ、って言って聞かなかったんだから。でも、ディニールの近くに拠点を作るつもりだから、作ったら招いてくれるって」
「ずるいずるいずるい! アルカばっかりずるーい! ルナーシャもレイスに会いたかった! 会いたかったぁー!」
「ちょ、ちょっとルナーシャ」

 畑拡張のために出かけていたルナーシャが帰ってきてからレイスが先程まで来ていたことを話すと、玄関の前地面に寝転んで手足をバタバタ動かし始めた。
 さすがに十八歳になった双子の妹がこんな二歳児みたいな駄々のこね方してたら兄として複雑すぎる。
 本当にやめてほしい。
 しかし、ルナーシャがそう叫ぶのも仕方がない。
 僕たち兄妹は本当に、彼女に――レイス・トゥワイエットに救われた。

 僕たちは生まれつき左手の甲に奇妙な痣があった。
 それが『聖者の紋章』という魔王に対抗できる唯一無二のものであると知ったのは、十二、三歳くらいの頃だっただろうか。
 巡礼に来た王都の神官により僕らの手の甲の同じ形の痣が『聖者の紋章』だとわかって、祖父母から半ば引き剥がされるように王都に連れていかれる。
 そして、そのままあれよあれよと無理矢理貴族学園に入れられた。
 僕らの意思など確認すらされない。
 それは決定事項。
 もし拒めば、僕らの帰る場所(・・・・)をなくすしかない、と言われたのだ。
 怒りを覚えたし、しかし弱い自分たちにはどうすることもできない。
 妹以外のすべてが敵に思えたし、そんな敵だらけの場所で妹を守らなければならないと思った。
 貴族たちの思考は僕ら平民には理解ができないほど難解で、ややこしい。
 なにをしても嘲笑され、呆れられ、馬鹿にされる。
 文字の読み書きから学ばなければならなかった僕らは、ずっと肩身が狭い。
 ルナーシャは“女子”だから、貴族の男たちにそれはもう色々言われ、されかけ、ものの一週間で子育て中の獣のように警戒心の塊になってしまった。
 勉強どころではない。
 身の安全を確保しなければならないと思うほど、あの場所は危険地帯でしかなかった。
 帰りたい。
 故郷に帰りたい。
 でも、ここで投げ出しで帰れば、祖父母は――。
 そんな僕たちの前に現れた救世主こそが彼女。
 レイス・トゥワイエット。
 王家の血を引く、王太子の婚約者。
 貴族の中では王家に次ぐ地位の公爵家のご令嬢。
 最初は警戒したが、ルナーシャに寄り添い、ルナーシャに声をかけてくる男の貴族を一人ずつ言葉の力で捩じ伏せて追い払ってくれて以降、僕らの側には誰も近づかなくなった。
 それだけでなく文字の読み書きもおぼつかないと知れば図書館で勉強を教えてくれるようになった。
 公爵令嬢の彼女が近くにいることで男の貴族は一切近付かなくなり、女の貴族の中でも優しい人が声をかけてくれるようになる。
 女性貴族は優しい人が多い。
 勉強がわからなければ『こういう勉強法がある』『ここから覚えると覚えやすい』などを教えてくれる。
 時々僕でもわかる嫌味を言ってくるご令嬢もいたけれど、そういう人はレイスが手を回して近づかなくしてくれた。
 僕らに関わる地位の低い伯爵家や子爵家のご令嬢は、みんなレイスに頼まれて声をかけてくれていたと後から知った。
 文字の読み書きを覚えたら、次は本格的な勉強。
 計算や文甫、歴史やテーブルマナー、貴族やら教わることも教わるようになる。
 貴族なら誰でも持っているドレスなども、レイスのお金で贈ってくれたり。

『レイス様はどうして僕らにこんなに親切にしてくださるんですか?』

 そう聞いたことがある。
 さすがに礼服やドレスは高いものだ。
 それを無料で贈ってくれて、優しく、親切にしてくれる理由。
 だって、なにも返せない平民を無償で世話を焼く必要があるだろうか?
『聖者の紋章』だって、魔王が生まれなければただの痣に過ぎない。
 そうだ、僕らが学園に入れられた時はまだ、この頃は魔王が生まれるかどうかすらわからなかったんだ。
 それなのに――。

『しんせつ……? 新雪……ああ、親切ね』

 庭の方を見て、雪の話かと思ったらしい。
 いやいや、今の質問で雪にはならないだろ。
 この人たまにものすごく天然。

『なぜと言われても、あなたたちの平穏を奪ったのは我々だもの。本当は私だって穏やかに生きたかったのよ。でも、無理矢理連れてきたのに他の貴族たちはあなたたちを平民だからと侮って、失礼なことばかりするんだもの。見てて私が不愉快だっただけよ』
『不愉快……だったから?』
『そうよ』

 眉を寄せながら、深々溜息を吐く彼女。
 メガネを指であげて整え、真っ直ぐこちらを見る。
 あまりにも――澄んだ瞳。
 本当にそれ以外の意図はないのだと、心にストンと落ちてきて納得してしまうような。
 自分が不愉快だから、僕らの味方をすることにした、と。
 自分も平穏な生活がよかった。
 僕たちと望みも同じ。
 でもそれを捻じ曲げてでも、不快感を払拭する方を選んだ。
 自分のため。
 でも、僕たちはそれに救われた。
 遠回しな言い方ばかりする貴族の中で、レイスだけは裏表のない高潔で美しい人。
 自分のための行動だから、レイスは僕らに対してすべて真摯。
 この人だけは、絶対に信じられると確信した。

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