貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――
第6話 後輩の告白
翌朝、私は会社のエレベーターの扉に映る自分の顔を見て、深く息を吐いた。
顔色は悪くない。
目の下も、まあ、社会人として許容範囲。
髪も乱れていない。
服もいつも通り。
問題は、内臓である。
内臓が、総出で朝礼をしている。
議題はひとつ。
本当に今日、私が前に出るのか。
「……出るんだよね」
小さく呟いた瞬間、エレベーターが開いた。
そこに立っていたのは、榊課長だった。
黒いスーツ。整った髪。無表情。
朝から抜かりない。
人間としての解像度が高すぎる。
「おはようございます」
「おはよう」
短い返事。
それだけで、昨日の夜の声が蘇った。
――次は、守られる側で終わるな。前に出ろ。
その言葉は、励ましというより命令に近かった。
でも、不思議と嫌ではなかった。
逃げ道をふさがれたのに、ちゃんと進む道を示されている感じ。
上司としては怖い。
人としては、もっと怖い。
なぜなら最近、怖いだけではなくなっているからだ。
「藤代」
「はい」
「今日のレビュー、冒頭は君が話せ」
内臓の朝礼が一瞬で非常ベルでパニックになった。
「冒頭、ですか」
「そうだ」
「榊課長が全体説明をしてから、私が補足する形では」
「感情導線を組んだのは君だ。ブランドコンセプトを、最初に君の言葉で置け。そのあと俺が構成と施策につなぐ」
私はバッグの持ち手を握りしめた。
「……はい」
声が出た。
思ったより、ちゃんと。
榊課長は私を見た。
「悪くない返事だ」
朝からやめてほしい。
たったそれだけで、心臓が暴れ始める。
顔色は悪くない。
目の下も、まあ、社会人として許容範囲。
髪も乱れていない。
服もいつも通り。
問題は、内臓である。
内臓が、総出で朝礼をしている。
議題はひとつ。
本当に今日、私が前に出るのか。
「……出るんだよね」
小さく呟いた瞬間、エレベーターが開いた。
そこに立っていたのは、榊課長だった。
黒いスーツ。整った髪。無表情。
朝から抜かりない。
人間としての解像度が高すぎる。
「おはようございます」
「おはよう」
短い返事。
それだけで、昨日の夜の声が蘇った。
――次は、守られる側で終わるな。前に出ろ。
その言葉は、励ましというより命令に近かった。
でも、不思議と嫌ではなかった。
逃げ道をふさがれたのに、ちゃんと進む道を示されている感じ。
上司としては怖い。
人としては、もっと怖い。
なぜなら最近、怖いだけではなくなっているからだ。
「藤代」
「はい」
「今日のレビュー、冒頭は君が話せ」
内臓の朝礼が一瞬で非常ベルでパニックになった。
「冒頭、ですか」
「そうだ」
「榊課長が全体説明をしてから、私が補足する形では」
「感情導線を組んだのは君だ。ブランドコンセプトを、最初に君の言葉で置け。そのあと俺が構成と施策につなぐ」
私はバッグの持ち手を握りしめた。
「……はい」
声が出た。
思ったより、ちゃんと。
榊課長は私を見た。
「悪くない返事だ」
朝からやめてほしい。
たったそれだけで、心臓が暴れ始める。