貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――
第8話 貴腐人の憂鬱、恋になる
「これから、仕事じゃない話をする」
榊課長――いや、榊さんは、そう言った。
昼休みの公園。
会社から七分。
駅前の喧騒から少し外れた、細長い公園。
ベンチが三つ、古い桜の木、自動販売機、そして白っぽい猫のしらたま。
私がひとりで秘密を抱えていた場所。
その場所で、榊は缶コーヒーを片手に立っていた。
たぶん、ホットだ。
なぜなら、彼は缶を持つ指先に微妙な警戒をにじませている。
熱いのだろう。
過去の経験に基づく判断なのだろう。
いつもなら、私はそこで笑っていた。
「熱いんですか」と聞いて、榊が「たぶん」と答えて、私は口元を押さえる。
でも今日は、笑えなかった。
榊の目が、いつもと違っていたからだ。
仕事中の冷静な目ではない。
猫を見るときのやわらかい目でもない。
私の資料を評価するときの鋭い目でもない。
逃げるのをやめた人の目だった。
榊課長――いや、榊さんは、そう言った。
昼休みの公園。
会社から七分。
駅前の喧騒から少し外れた、細長い公園。
ベンチが三つ、古い桜の木、自動販売機、そして白っぽい猫のしらたま。
私がひとりで秘密を抱えていた場所。
その場所で、榊は缶コーヒーを片手に立っていた。
たぶん、ホットだ。
なぜなら、彼は缶を持つ指先に微妙な警戒をにじませている。
熱いのだろう。
過去の経験に基づく判断なのだろう。
いつもなら、私はそこで笑っていた。
「熱いんですか」と聞いて、榊が「たぶん」と答えて、私は口元を押さえる。
でも今日は、笑えなかった。
榊の目が、いつもと違っていたからだ。
仕事中の冷静な目ではない。
猫を見るときのやわらかい目でもない。
私の資料を評価するときの鋭い目でもない。
逃げるのをやめた人の目だった。