トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
——その日。

大阪中央医療センター救命センターは、かつてないほど騒然となった。

『コードレッド受け入れ』

西国医師から入った緊急通信。

その瞬間。

ERの空気が変わる。

コードレッド。

それは通常の重症搬送とは違う。

“医療者側の重大受傷”。

しかも今回は——。

『ドクターヘリクルー受傷』

インカム越しの言葉に、その場にいた全員の動きが一瞬止まった。

「……誰が?」

誰かが呟く。

その問いに。

数秒の沈黙。

そして。

『一ノ瀬紗凪フライトナース』

空気が、凍った。

誰もすぐには理解できなかった。

あの、一ノ瀬紗凪が。

現場で誰より冷静だった人が。

今、“搬送される側”になっている。

「っ……は?」

若手看護師が顔を強張らせる。

「嘘やろ…?」

その空気を、一瞬で切り裂いたのは森崎だった。

「ER一列空けて!!」

怒鳴るような声。

それで全員が我に返る。

「外傷受け入れ最大対応!!」

「CT最優先!」

「輸血準備!」

「外科、脳外、胸外全部コール!!」

「家族に連絡して!」

一気に空気が動き出す。

看護師たちが走る。

モニター準備。

人工呼吸器確認。

輸血庫連絡。

救急カート展開。

ERの緊張感が一気に跳ね上がる。

森崎はインカムを握り直した。

「西国先生、バイタルは!」

返ってきた声はいつもよりずっと速かった。

『GCS低下中!SpO₂不安定!左胸部外傷疑い!呼吸状態悪化!』

森崎の顔色が変わる。

「気胸か…?」

小さく漏れる。

その横でスタッフたちも明らかに動揺していた。

「一ノ瀬さんが……?」

「どう言う状況なんや?」

現場はパニック、そんな言葉がピッタリだった。


一ヶ月。

紗凪はもう、この救命センターの中心になっていた。

現場でも。

ICUでも。

育成でも。

いつだって落ち着いていて。

誰かが焦れば、自然と空気を戻してくれる存在。

その紗凪が今、生死の境界にいる。

神波が声を張る。

「受け入れベット準備!」

その声でまた空気が締まる。

救命医の声。

「クルー受傷や!!絶対助けるぞ!!」

その一言に。ER全体の空気が変わった。

助ける。今度は、自分たちが。

するとそこへ高城医師が早足で入ってくる。

「状況は」

森崎がすぐ振り返る。

「工事現場で二次災害です」

「詳細はざっくりとしか。
一ノ瀬ナースが橘ナースを庇って鉄骨直撃」

「胸部外傷メイン、意識レベル低下」

高城医師の目が鋭く細まる。

「ヘリ到着まで?」

「6分です」

「……短いな」

その声は低かった。

その表情には明らかな焦りが滲んでいた。

高城医師がすぐ指示を飛ばす。

「開胸セット準備」

「ECMO待機」

「麻酔科呼んで」

周囲が一気に慌ただしくなる。

誰も口には出さない。

でも全員、分かっていた。

——かなり危ない状況だと。
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