トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
ヘリ到着まで、あと3分。

大阪中央医療センター救命センター。

ERは完全に“戦場”になっていた。

「胸部外傷セット入ります!」

「輸血6単位到着!」

「CT室確保できました!」

怒号みたいに飛び交う声。

走る足音。

モニター音。

その中心で、森崎はインカムを握ったまま立っていた。

「西国先生、呼吸状態どうです!?」

『悪い』

返ってきた声は短かった。

その一言だけで、十分すぎた。

『左呼吸音かなり減弱』

『血圧も落ちてる』

『意識反応さらに鈍い』

ERの空気がさらに張り詰める。

森崎が舌打ちを飲み込む。

「……緊張性入ってるか」

その横で高城医師が静かに言った。

「到着後すぐ胸腔ドレーンだ」

「間に合わなければその場で穿刺する」

「「はい」」

そう言ってそれぞれ準備を始める。

すると若手看護師が、震える声で呟いた。

「一ノ瀬さん……大丈夫ですよね……」

その声に、一瞬だけ空気が止まる。

森崎は答えなかった。

答えられなかった。

代わりに。

「絶対助ける」

低く、強く言った。

「うちのエースやぞ」

その声に。

周りのスタッフたちの目が変わる。

誰も諦めていない。

諦める気なんて、最初からない。

その時。

遠くからローター音が聞こえた。

「来た!!」

誰かが叫ぶ。

ER全体が一気に動く。

ストレッチャー準備。

酸素。

人工呼吸器。

輸血ライン。

全員が配置につく。

森崎は真っ直ぐヘリポート方向を見る。

——頼む。

それしか考えられなかった。

数分後。

ヘリポートの扉が勢いよく開く。

「搬入します!!」

西国先生の声。

その瞬間。

ERの空気が凍りついた。

ストレッチャーの上。

そこにいたのは。

血だらけのフライトスーツを着た紗凪だった。

左胸部は赤く染まり。

酸素マスク越しの呼吸は浅い。

顔色は真っ白。

ぐったりしていて、ほとんど反応がない。

「……っ」

若手看護師が息を呑む。

誰もこんな姿、想像したことがなかった。

あの紗凪が。

搬送される側なんて。

「バイタル!」

高城医師の声。

「BP70台!」

「SpO₂78!」

「脈拍140!」

「左呼吸音著明低下!」

一気に空気が緊迫する。

「緊張性気胸疑い!」

「穿刺する!」

高城医師がすぐ動く。

森崎も反射的に横へ入った。

「輸血流します!」

「ルート追加!」

「エコー準備!」

その瞬間。

ストレッチャー横で立ち尽くいていた橘が、崩れるみたいに膝をついた。

「……私のせいです」

掠れた声。

誰にも届かないくらい小さい。

でも。

森崎には聞こえた。

森崎は一瞬だけ橘を見る。

その目は真っ赤だった。

完全に限界だった。

でも。

今は違う。

森崎は低い声で言う。

「橘さん」

橘が震えながら顔を上げる。

「泣くんは後」

その声は厳しかった。

でも。

責める声じゃなかった。

「今、一ノ瀬さん助けるんが先や」

その言葉に。

橘の唇が震える。

「……はい……!」

涙を拭う。

そして立ち上がる。

看護師として。

今、自分に出来ることをするために。

その頃。

処置室では。

「SpO₂上がりません!」

「血圧まだ低い!」

「輸血追加!」

声が飛び交っていた。

高城医師が胸腔穿刺を行う。

次の瞬間。

「エアー出た!」

緊張性気胸。

やはりそうだった。

モニター波形が少し戻る。

でも。

まだ安心なんて出来ない。

「FAST陽性!」

誰かが叫ぶ。

腹腔内出血。

空気がさらに変わる。

高城医師が即座に判断する。

「オペ入る!」

その瞬間。

ER全体がまた一気に動き出した。

止まれない。

止まったら終わる。

誰より現場を支えてきた人を。

今度は、自分たちが救う番だった。
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