トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
「……大阪行かないと…」

自分でも驚くくらい、声が掠れていた。

頭の中はもうそれしかなかった。

行かないと。

紗凪のところへ。

今すぐ。

「陽貴」

優朔が低い声で呼ぶ。

でも俺はもうスマホを握りしめたまま立ち上がっていた。

「新幹線……いや飛行機……」

まともに思考が回ってない。

手が震える。

スマホも上手く操作できない。

そんな俺を見て、優朔が立ち上がった。

「わかった。とにかく陽貴は大阪に行って」

その声は驚くほど落ち着いていた。

俺が顔を上げる。

優朔は真っ直ぐこっちを見ていた。

「スケジュールは僕がなんとかしておくから」

「でも——」

「今は仕事のこと考えなくていい」

はっきり言い切る。

その声に、奏も蒼依も頷いた。

「そうだよ」

「今そんな状態で仕事なんか無理」

俺は何か言おうとした。

でも言葉が出なかった。

情けないくらい、頭が真っ白だった。

そんな俺を見て、奏が苦しそうに眉を寄せる。

「陽貴さん…」

自分でも分かってた。

呼吸が浅い。

足元がふわふわする。

怖くて仕方ない。

その時だった。

「でも」

梓ちゃんが小さく口を開いた。

全員の視線が向く。

梓ちゃんは、まだ目が真っ赤だった。

涙も止まってない。

でも。

その目だけは、もう違っていた。

さっきまで泣き崩れていた“親友”じゃない。

現場に立つ人間の目だった。

「……今の陽貴さん、1人で行かせられない」

その言葉に、優朔が静かに頷く。

俺は反射的に「大丈夫」と言いかけた。

でも実際全然大丈夫じゃなかった。

「私も行く」

梓ちゃんが言った。

「私に行かせて」

強い声だった。

涙でぐしゃぐしゃなのに。

その声だけは震えてなかった。

「私は紗凪の親友だから」

「それに」

一度息を吸う。

「紗凪のこと、よく知ってるから」

その瞬間。

空気が少し変わった。

梓ちゃんは、ぎゅっと拳を握っていた。

爪が食い込むくらい強く。

救急看護師の顔だった。

どれだけ苦しくても。

どれだけ怖くても。

今やるべきことを考えようとしてる顔。

優朔が静かに聞く。

「梓ちゃん、仕事は?」

「師長に連絡します」

即答だった。

「今の私は、紗凪のところ行くのが先です」

その言葉に。

誰も反対できなかった。

奏が小さく息を吐く。

優朔はすぐスマホを取り出す。

「新幹線押さえる」

「最短で行けるやつ」

「陽貴、荷物持ってきな」

俺は数秒遅れて頷いた。

まだ現実感がない。

でも。

動かないと。

紗凪のところへ行かないと。

その気持ちだけで、なんとか立っていた。

梓ちゃんが静かに涙を拭く。

そして。

小さく呟いた。

「待ってて、紗凪」

その声は。

祈りみたいだった。
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